博士学生へのインタビュー

山口大学では、日本の科学技術力を高めることができる優れた博士の育成に力を入れています。博士号は国際社会で通用する強力な称号です。近年では、あらゆる分野で博士号保持者が活躍しており、そのため、博士号の取得者を増やすことが国を挙げて進められています。欧米などの先進国では理系大学院に進学することは、すなわち博士号を取ることを意味しており、修士号よりも格段に価値のある称号として位置づけられています。対して、日本では修士号保持者が多いため、他の先進諸国と比べても少し特異な状況と言えます。この原因の一つは、博士号の取得方法やどういう人が対象になるのか、といった基礎的な情報の欠如だと考えられます。

そこで、これから多くの学生が進学に対して興味を持ってもらえるように、博士後期課程に在学中の学生に進学のきっかけ、研究成果や日頃の生活などをインタビューします。自然真理の追究の楽しさは学生のうちにしか体験し得ない面もあります。楽しみながらやることができると、知識や技術も自然と備わっていき、その結果社会から要請されている優れた技術者に成長することが可能です。これらを実際に体験している学生の声を聞いてみましょう。

インタビュー vol.4

博士課程進学のきっかけを教えてください。

山田:私は将来、研究者として国際的な現場で活躍したいとの思いから博士後期課程への進学を決めました。国内では博士号取得者の数は修士号取得者よりも圧倒的に少ないですが、海外では、博士号を持っていないと研究者として扱われず、海外で研究を行う上では必須の条件です。さらに、学会発表や論文執筆などの経験により、研究者としてだけでなく、人間的にも大きな成長が期待できることも博士進学への大きな動機でした。

学部、博士前期(修士)、現在の博士後期課程と研鑽をつまれてきましたが、各課程における違いはなんですか?

山田:まず、学部では化学に関する基本的な知識を得ることが最も大切です。決められた時間に授業があり、その理解度をテストによって評価するという点では、高校までのシステムに近いと思います。しかし、研究室に配属される学部4年生からはガラッと変化します。それまで蓄えてきた知識をベースに、誰もやったことのない「あたらしいこと」に挑戦することになります。研究室の先生や先輩からの指導の元、研究を進めて行き、研究のイロハを学びます。さらに、修士過程では研究を自分で進めていくだけでなく、後輩の指導も行い、研究者として必要な能力を獲得することを目指します。博士課程の最終的なゴールは、学部、修士で培った知識や経験をベースに、研究者として自立することだと思っています。

山口大学の博士後期課程学生に対するサポートはどのようなものがありますか?

山田:山口大学が行っている博士後期課程学生への金銭的な支援としては、リサーチアシスタントと呼ばれる制度に加え、常盤工業会奨学金、新興産業奨学金などがあります。それぞれ学内で審査があり、それに通れば生活に最低限必要な支援が受けられます。他にも様々な機関からの支援があり、ネットでも簡単に調べることができるので、金銭面で不安な学生は調べてみると良いと思います。

現在の研究テーマについて教えてください。

山田:私はリチウムイオン二次電池中の電極と電解質の間 (=界面) で生じる反応解明を目的とし、研究を行っています。リチウムイオン二次電池については昨年、旭化成の吉野彰さんがノーベル賞を受賞したことで有名になりました。リチウムイオン二次電池は広く応用が進んでいますが、意外にも詳しい反応メカニズムなど明らかにされていない部分が数多く残っています。中でも近年盛んに研究が行われているのが、界面反応に関するものです。界面とは、電気化学反応が起こる「舞台」であり、数十nm程度の狭い領域で起こる反応が電池性能を決定づけるため、非常に重要です。しかし、これまでその界面を電気化学反応が起きている‘リアルタイム’で観察した例はほとんどなく、その詳細については明らかになっていません。この謎を解き明かすために、私は界面反応の観察に有効な赤外光を用いたリアルタイム観察に挑戦しています。世界でも例の少ない研究であり、かつその成果は学術的にも社会的にも大きなインパクトがあるので、試行錯誤しながら日々取り組んでいます。

国際学会(米国・ボストン)での発表経験がありますが、どのように成果を出すのですか?国際学会のための発表の準備や、実際に行ってみて感じたことを教えてください。

山田:得られる結果に対して様々な仮説を立て、それを確かめる実験を立案し実行する、これらのサイクルを繰り返すことで成果を挙げました。また、初めての英語での発表には非常に苦労しました。ポスター発表であったため、発表原稿は作らず、対話形式での練習を繰り返すことで対策し、本番の発表・議論は充実したものとなりました。国際学会への参加は、国内学会と比較して圧倒的に難易度が上がりますが、世界の一流の研究者達が集まりハイレベルな議論が交わされるので、大きな刺激となり、自身の研究者としてのレベルを向上させる良い経験となりました。

現在、これまでの研究内容を国際学術誌に投稿するため、論文を執筆中と伺いました。その際の苦労ややりがいを教えてください。

山田:私が現在執筆している論文は、新規物質を用いた電解質調製とその特性評価に関するものです。新規物質の合成を行う際には、当初設計した反応でうまく合成できず、苦労する日々が続きました。しかし、幾つもの反応を試し、その最適化を行うことで結果的に合成に成功し、言葉にできない喜びを味わうことができました。それまでの苦労があったからこそ、大きな達成感が得られたのだと思います。論文の執筆の際には慣れない英語に苦労していますが、自身の成果が国際学術誌に掲載されることをモチベーションとして、努力しています。

将来はどのような分野で活躍したいですか?

山田:現在と同様、エネルギー材料関連の分野で活躍したいと思っています。エネルギー問題の解決は人類にとって喫緊の課題です。そのような重要な問題に対して、研究者として直接的に貢献したいと思っています。そのような研究者には、豊富な知識や、独創的な思考力が求められると考えています。そのために、多くの論文を読み、学会発表などにより、多くの研究者と交流することが必要不可欠ではないかと考えています。博士後期課程では、博士前期課程までとは異なり、自身の裁量によって自由に研究できるため、このような能力を獲得する場として最適であると思っています。

最後に後輩へメッセージを!

山田:新型コロナウイルスの影響による今年の就職活動への影響は大きく、それに伴い修士や博士課程への進学を迷っている人も多くいると思います。そんな後輩へと伝えたいのは、現状把握と自己分析を大事にして欲しいということです。学部4年又は修士2年での進路選択はその後の人生へと大きな影響を与えます。自分が何をしたいか、それに向けて能力や環境は整っているか、冷静に分析すれば自ずと進路は見えてくると思います。

インタビュー vol.3

博士課程進学のきっかけを教えてください。

私は学部4年生で研究室に配属された頃は博士後期課程に進学することは考えておりませんでした。しかし、学部4年生の時に、まずアメリカで行われた最大級の学会に参加し、その数か月後に自分自身の学会発表の機会もあり、研究を進めているうちに研究の奥深さ、面白さなどに気付き始めました。また、同研究室で博士後期課程を修了された先輩に会い、その先輩の博士後期課程時代の経験談や研究に対する思いを直に聞いたことで、その先輩への憧れも生まれ、更に研究への興味が深まりました。しかしながら、当時の私は「博士」という言葉を自ら口にすることも出来ませんでした。最終的な決め手となったのは指導教員の先生に博士後期課程の道を勧めて頂けたことでした。

学部、博士前期(修士)、現在の博士後期課程と研鑽をつまれてきましたが、各課程における違いはなんですか?

「化学」と聞けば、有機・無機と分類する人も多いかもしれませんが、化学は幾多の分野にも分類することが出来ます。学士課程では、この様々な分野の化学の基礎を学び、化学系としての「土台作り」の期間であると考えております。修士課程では研究室に配属されて研究テーマも定まっており、一人一人が自身の研究を進めていく期間となります。学会発表も論文投稿もした方が良いものの、修士の修了要件とはなっておりません。その一方、博士後期課程では研究成果を論文化することが必須となり、さらには研究内容の自発的な発案が求められます。もっと欲を言えば研究費も、ある程度は自分で稼いできた方が良いでしょう。そういった意味では、たとえ研究成果が出たといえども、それは指導教員や過去の先輩方のお膳立てがあっての成果であって、卒業研究では一連の研究活動の流れの中の、ほんの一部分だけを行うようなものであり、修士課程ではそれが少し進歩しただけのものであって、どちらも「研究の下積み」の期間であります。博士後期課程に進学することで「研究者としての自立」が始まると考えております。博士後期課程では、本当の意味での研究力や、新たな分野に踏み込んでいくために他分野での知識も必要とされることもあります。学士・修士課程と比較して大変ではありますが、博士後期課程に進学することで研究に必要な力である、研究内容の立案、高度な専門知識、論文発表、研究費の獲得といった一連の研究活動の内容を、バランス良く習得することにより、大きく「自身の成長」へ繋がることが最大の違いであると考えております。

山口大学の博士後期課程学生に対するサポートはどのようなものがありますか?

山口大学の博士後期課程学生に対する金銭面のサポートにはリサーチングアシスタント(RA)と呼ばれる制度、常盤工業会奨学金、新光産業奨学金といった給付型奨学金の制度や授業料免除の制度もあります。また、飛び級をして進学した学生には2年間の経済支援もあります。その他にも、大学で推進している日本学術振興会の特別研究員に応募し採用されることで、給与として支援金を受け取ることも可能です。

現在の研究テーマについて教えてください。

私の研究テーマを大まかに言うと、「強誘電体」と呼ばれる物質の構造と特性の相関を明らかにすることです。「強誘電体」という単語を初めて聞く方もいるかと思いますが、ライターにも使用されている圧電素子や、スマホ・パソコンといった様々な電子機器にもコンデンサなどとして使用されている物質です。現在、鉛(Pb)を含む強誘電体の使用が多い一方、Pbが環境や人にとって有害であるため、Pbの使用を制限する取り組みも進められています。そこで、私の研究ではPbを含まない非鉛系強誘電体の合成と結晶構造の解析や特性の評価の結果より、構造変化が特性にどのように影響するのかを明らかにしようと試みております。それにより、さらなる高性能な物質・材料の開発が可能になると考えております。

国際学術誌にご自身の研究が掲載されていますが、どのように成果を出すのですか?アイデアや文献調査、研究の進め方などを教えてください。

企業の研究では、実用化のための研究が主であり、高性能な特性が得られるメカニズムを追及することはほとんどないと言われています。大学での研究では自由な研究が可能ですので、企業があまり行っていない基礎研究に注目することも必要であると考えております。実用的な研究が重要であることは間違いないですが、それを企業と競ったとしても、大学と企業ではマンパワーと財力に違いがあり過ぎ、勝ち目は低いと言えます。そのため、大学での研究の価値を世の中で認めてもらうためには、企業とは違った視点や観点からの研究を行い、それを基に企業の方ともディスカッションすることが意義あることだと考えています。
研究を進めるにあたって、まずは既往の研究から「どのような物質で」、「どんな特性が」などといった、注目されている観点からの調査を行っております。それらの文献の中から、まだ明らかとなっていない事象や、理論的にしか報告なされていない事柄、そして研究者間で異なった矛盾した結果が報告なされている点などに着目し、それに対して、自分が世の中にどのようなことで貢献ができるのか、それを成功させるためには、どのような実験により解明できるのかの方法を模索します。化学の研究は、自分の住んでいる地域のローカル的な事柄が研究対象であることは少なく、世界的なグローバルな調査が必要となります。そのため、英語の論文を片っ端に調べる必要があります。自分の研究の方向性が定まったら、とにかく自分が考える実験をやってみます。自身の考えのみで解明できることが一番であるとは思いますが、考えが浮かばない際には他の人の知恵を借りてみるのもいいと思います。そのためのゼミであり、学会活動であると思っております。自身の努力も必要ではありますが、別視点からのアドバイスも自身の成長に繋がると思っております。現時点で、国際学会誌に2報分が出版できる結果があります。レフリーとの応答の仕方に関して、指導教員の先生から指導を受けつつ、研究室の先輩を見習って、アメリカまたはヨーロッパの一流紙へ掲載ができるよう、努力しております。

将来はどのような分野で活躍したいですか?

将来像としては、現在研究を進めている「強誘電体」に関する研究職での活躍が一番の希望です。ですが、私は研究室に所属してから今までの間に、所属している研究室が研究対象としている電子材料、生体材料、超高温材料といった材料だけの知識だけではなく、化学分析や物性測定の原理や測定法と解析法、さらには新たな装置の開発のために必要な光学や電子制御といった様々な事を会得しております。またそれらに加え、研究の立案から実行能力、プレゼン能力などといった研究職に就いた際も必要とされる能力も育んでいっていると思っております。これらは「強誘電体」に限らず、もっと様々な分野の研究で活かせるとも思っております。そのため、私は分野を問わず、自分が今までに得てきた知識・技術などを活かせるような研究職でも活躍をしたいと思っております。

最後に後輩へメッセージを!

学士課程の皆さんへ。まだ研究室にも配属されておらず、研究といったものを理解されていないと思います。ですが、普段皆さんが講義などで学ばれていることは今後、研究生活を進めるうえで必要な知識であり、勉強を怠ったことを後悔する人も少なくありません。勉学を「単位取得のため」という目的だけで済ませないでください。今後の皆さんの研究生活の助けとなります。
修士課程の皆さんへ。せっかく大学院へ進学したのだから、思う存分研究を行ってみてください。先生にアドバイス頂いたことを行うのも必要ですが、自分の考えがあればそれを行ってみても良いかもしれません。長い人生の中、たった2年間という修士課程の時期は、刹那的で大変貴重な時間です。後悔のないように研究を進めてみてください。もし、研究が楽しい、もっと新たなことを知りたい・やってみたい、という気持ちがあれば、博士課程に進学することを視野に入れても良いかもしれません。

インタビュー vol.2

博士課程進学のきっかけを教えてください。

子供の頃から、「研究者になりたい」との夢を持っていました。これは、研究者への単純な憧れがきっかけでした。将来確実に研究者になるために、大学に入る前から博士課程への進学は決めていました。しかし、大学に入学してからはそのモチベーションは変化していきました。課題に対して、様々なアプローチを提案し、その解決へ向けて実験を行い、実験結果を解析し、次の実験への知見を積み重ねていくというPDCAサイクルを実際の研究活動を通して体験することで、研究者という職種の先鋭でありながら実直な有り様に、魅力を感じるようになりました。単なる憧憬の対象であるというだけでなく、研究者の仕事内容そのものを何よりも魅力的であると感じたことが、最終的に自身を博士課程へと後押ししたのだと思います。

学士、修士、博士課程と研鑽を積まれてきましたが、各課程における違いは何ですか?

学士課程は「将来を選択するための土台作り」です。大学に入学した時点で「化学系」という狭い分野へと飛び込んだかのように思いがちですが、一括りにされた「化学系」という分野の中にも多岐にわたる研究領域があります。高校までの学習だけで理解できるものではありません。研究者になるためにはたくさんの研究領域の中から、自身の専門とする領域を選択する必要があります。その選択のために知識土台を形成することこそが、学士課程だと考えます。対して修士課程とは「基礎的な研究技術の習得」だと思います。修士課程に入る時点で、自身の専門領域をある程度定めることになります。そこで「研究者とは何か」を、修士課程の二年間で身につけていきます。教授や先輩に指導してもらいながら研究 を進め、自立して研究活動を行うことができる「研究者」としての基礎が育まれるわけです。しかし、修士時点では未だ一人前ではありません。実際、専門領域を定めたといっても、就職先の企業ではこれまで学んだこととは全く別の領域の研究を任されることがほとんどです。これまでの総仕上げとして、また 「一人前の研究者として確立する」ために博士課程があります。ここでは基礎的な研究技術だけでなく、実験の計画から論文の執筆まで、全ての能力を有した一人前の研究者になることが求められます。そのために、一人で研究活動を行い、結果を残さなければいけません。その証明のために学術論文が要求されます。これまでの課程と博士課程との大きな違いは「結果を残して、研究者の証をたてる」ことだと思います。

山口大学の博士後期課程学生に対するサポートはどのようなものがありますか?

山口大学工学部のサポートとして大きなものに「常盤工業会奨学金」、「新光産業(株)奨学金」があります。どちらも給付型で高額な奨学金なので、博士課程進学者は応募した方が良いです。研究室によっては、リサーチアシスタント(RA)として、日々の研究活動に給与を払うところもあります。これは指導教員との要相談ですが。また、山口大学の外にも企業や地方公共団体が募集している奨学金などもあり、山口大学ではそういった奨学金を、掲示板やWebページを用いて周知しています。博士課程に興味があるけど、金銭的に余裕がないという方は、一度指導教員や窓口などで相談することをお勧めします。最も大きな負担になると予想される授業料についても、免除制度があるので、経済的に厳しい場合にはある程度緩和されるはずです。

現在の研究テーマについて教えてください。

私の専門はズバリ「電池」と「高分子」です。電子機器をはじめ広く普及しているリチウムイオン二次電池(LIB)ですが、全てのLIBは火災のリスクを抱えています。これは可燃性の有機溶媒を電解質として使用しているためで、課題解決のためにより安全性の高い様々な電解質が提案されています。その中でも「ポリマー電解質」は燃えにくいというだけでなく、強度としなやかさを両立でき、高い汎用性が期待できます。私はポリマー電解質の実用化への大きな障壁である「イオン伝導性の低さ」を改善するために、ポリマー電解質の分子構造の最適化を目的に研究を行っています。そのアプローチとして、ポリマー電解質の構造を戦略的に設計し、比較検討することで、分子の構造がイオン伝導性へとどのような影響を与えるのか調べています。

Fig. 1 比較しているポリマー電解質の分子構造の一例
国際的な学術誌にご自身の研究が掲載されていますが、どのように成果を出すのですか?アイデアや文献調査、実験の進め方などを教えてください。

私のスタンスとしては、とにかく「比較」を大事にしています。当該分野における研究は、実用性へと直接的にアプローチしているような報告が多く、「どうして良い結果になったのか」、「どのようにしたら悪い結果を防げるのか」といった知見が足りていないのが現状です。特に最近は様々な構造を組み込んだ複雑な系での報告が多く、そうした系では細かな機構などはあまり明らかになっていません。しかし、より良い結果を出すためには、このブラックボックス化した部分を明らかにする必要性があるはずです。そこで、私はなるべくシンプルな系をモデルに、少しずつ構造を変えて比較をしています。そうすることで、分子構造の中でも、物性への影響が少ない構造と、逆に支配的に影響を与える構造が見えてきます。こうした知見を積み重ねていくことで、細かな機構が明らかとなり、ひいては優れた物性を持つ、新しい分子構造の発見へとたどり着くものと考えています。学術誌については、そういった比較を通して得られた知見をまとめています。

将来はどのような場で活躍したいですか?また、博士後期課程で学んだスキルは博士前期課程と違いどのように役に立つのですか?

将来的には、研究職としての自身が必要とされるような場で活躍したいです。社会が研究者に求めているものとは、知識を網羅した専門家、及び先鋭な発想力を有した発明家としての能力だと考えています。また、現場に目を向ければ、前述のPDCAサイクルをチームリーダーとして達成するようなマネジメント能力も求められるかもしれません。これらの能力は博士課程になって自身で研究を進めるようになって、たくさんの文献を読み漁る、学術誌に載せるためにこれまでにない新たな研究を試みる、あるいは後輩に教導することを通してはじめて身につくものではないかと考えています。

最後に後輩へメッセージを!

私は初めから博士課程まで進学することを決めていました。しかし、私のように既に決意を固めているような人は少ないかと思います。そういった悩んでいる後輩へと強く伝えたいのは、「自身が何に価値を置いてるのかを明確にする」ことを、最初にした方がいいということです。例えば、友達と遊びたい、ゲームにお金を使いたい、遊ぶ時間が欲しい、趣味を見つけたい、やりがいのある仕事をしたいなど、これを見つけることで自分の将来設計、進むべき進路が見えてくると思います。これを決めずに自身の進路を決めてしまうと、そのうち無理がでてきます。自分の人生を楽しく、充実したものとするために、どこに重きを置くのかを明確にして、人生の選択をしてください。

インタビュー vol.1

博士課程進学のきっかけを教えてください。

山根:研究室に配属されたばかりの時は、博士後期課程への進学は考えておらず、就職しようと考えていました。しかしながら、研究を実際に行っていく過程で、研究の難しさと同時に自分しか体験していない世界を追求できる面白さを感じることができました。1度、大学院を修了後、他大学の大学院で研究員として勤務しながら、自分の将来を考えたところ、博士課程でより研究への姿勢や、思考を深めてから、改めて研究職に就きたいと考える様になり、進学を決定しました。

中村:博士前期課程において反応開発の面白さややりがいを研究の中から見出せるようになったことと修士を修了後就職と考えたときまだ現在の研究を続けていたいと思ったことが博士後期課程進学のきっかけです。また、研究テーマが論文化し、先生から博士後期課程への飛び級を進められたことが決め手となりました。

学士、修士、博士課程と研鑽を積まれてきましたが、各課程における違いは何ですか?

山根:山口大学では学士、修士の卒業、修了にあたって、論文や学会参加などの研究成果は求められません。しかしながら博士後期課程では論文3報の掲載が最低条件となります。そのため、結果は常に求められるようになるため、大変な時期はこれまでの課程よりも確実に多くなると思います。しかし、それと同時に研究に没頭する時間や、学会などへの参加は確実に増えると思います。特に学会参加などは刺激を受けることが多いため、博士課程は学士、修士課程よりも、自身が成長出来るチャンスが多い場ではないかと思います。

中村:まず学士課程では、専門分野の研究に取り組む前段階として幅広くかつ専門的な化学の知識を得るための期間であると考えています。また修士課程では、学士課程のときに学び得た知識を生かし、研究や学会発表に取り組み、経験を積むための期間であると考えています。さらに博士課程へ進学すると、研究に対する企画力やそれを計画的に遂行するための実行力が求められてくると思います。このように、各課程ごとに求められる能力も高くなっているように思えますが、学士、修士課程できっちりとやるべきことをやっておけば、博士課程へ進学したときそこまで苦労することはないのではないかと思います。

山口大学の博士後期課程学生に対するサポートはどのようなものがありますか?

山根:山口大学が行っている金銭的なサポートとしては、リサーチングアシスタント制度、常盤工業会奨学金、新光産業奨学金があります。その他、各種財団からの奨学生の募集が山口大学のHPに掲載されていますので、それらに応募してみるのもよいと思います。また日本学術振興会の特別研究員に採用されれば、給料が頂ける様になり、金銭面の不安は解消されると思います。この制度は博士前期課程の2年から応募できるので、早い段階でドクターに進学を決めている学生は、そちらにも挑戦してみるのも良いかと思います。

中村:博士後期課程に対してのサポートではRA(リサーチングアシスタント)という経済支援制度があります。また、飛び級した学生に対してのサポートとして二年間の授業料程度の経済支援が行われます。このように大学側からも経済支援は非常に充実しています。他にも大学が推進する制度として、日本学術振興会の特別研究員制度に応募することができます。特別研究員に採用された場合、研究費だけでなく研究奨励金が支給されるため、応募すべき制度の一つです。

現在の研究テーマについて教えてください。

山根:私は現在、有機合成化学を専攻しており、遷移金属触媒を用いた立体的に混み合った位置の炭素-水素結合の変換反応について研究を行っています。今回注目した箇所の炭素-水素結合の変換反応は既存の方法では、触媒活性の低下よって反応が殆ど進行しないことが知られています。 (Fig 1)。

Fig 1

この問題を解決するためには、従来には無い全く新しい触媒反応を開発する必要があります。
新規触媒反応の開発の実現のために、触媒と用いる試薬の組み合わせ、また反応基質の設計などを検討しています。研究の流れとしては、まず設計した反応を実際に行い、得られた粗生成物をGC-MS、NMRといった分析装置を用いて分析します。次に得られた有機化合物をカラムクロマトグラフィーによって精製、分析を行っています。
 この反応系の確立によって従来では合成が困難であった骨格の構築や、複雑な化合物をより単純な化合物から合成可能になることも期待できます。また遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応は、医農薬分野にもよく用いられる反応ですので、社会的に与える影響も大きいテーマであるといえます。

中村:現在の研究では、銅触媒を用いた位置及び立体選択的なアルキル置換二重結合形成反応の開発を行っています。炭素‐炭素二重結合は医薬品や天然物分子において重要な化学結合の一つです。そのため、様々なアルケンの合成法が開発されてきました。しかし、アルキル置換二重結合形成反応において、位置及び立体選択性の制御が困難であるのが現状です。この問題を解決するために、私の研究テーマではアルキル置換反応において銅触媒による位置及び立体選択性の制御に取り組んでいます。

国際的な学術誌にご自身の研究が掲載されていますが、どのように成果を出すのですか?アイデアや文献調査、実験の進め方などを教えてください。

山根:私の実験の進め方としては地道に類似反応の文献の調査、実験計画の立案、実験結果の解析といったサイクルを何度も繰り返すことです。新しいことに挑戦するのですから、誰に頼るでもなく、自分でこうしたサイクルを粘り強く続けることが重要だと思います。この様に主体的に研究を進めていくことが成果、次のテーマのアイデアの発見だけでなく、実験に対するモチベーションの維持にも繋がっていると思います。

中村:研究を進める際は、まず先行研究を参考にすることでアイデアを得ています。そこで知見を得て自分の研究と見比べることでどのように実験を進めていけば良いのかを模索していきます。それでもよいアイデアが得られない時は、とりあえずがむしゃらに実験を仕込み反応の傾向を掴むことで、研究の成功へとつなげていきます。

将来はどのような場で活躍したいですか?また、博士後期課程で学んだスキルは博士前期課程と違いどのように役に立つのですか?

山根:企業で有機合成に限らず、化学分野で研究活動を行い、世の中に新しい技術を提供したいです。加えて、次世代も育成できるような研究者になりたいです。
博士後期課程では日々の実験を通して、より研究への姿勢や、論理的思考が培われると思います。また学会参加、自身で研究費を確保する機会も与えられると思います。これらの機会を通して、プレゼンテーション、書類の作成能力、研究の立案能力なども培われると思います。このようなスキルは研究者には必須だと思うので、アカデミックと企業のどちらに進んでも役に立つと思います。

中村:将来は研究に携わっていきたいです。そのため、企業などの研究職に就職し、より社会に貢献できる研究を行うことができればと考えています。特に博士取得者は、即戦力というだけでなく、新規の研究テーマを提案し、遂行に向けてのスキルが求められると思います。博士後期課程では博士前期課程と違いそれらのスキルを磨く機会が多いため、研究により役立つことが考えられます。また、研究は一人ではできないので、様々な研究者と協力し意見を出し合うことが大事だと思います。博士取得者はよりその専門分野におけるプロであるため、チームで研究を遂行するとき、博士としてのスキルが役に立つのだと考えています。

最後に後輩へメッセージを!

山根:研究の醍醐味は、誰も見たことのない世界を、世界ではじめて見ることができることです。新しい発見をする瞬間や喜びというのは、世界でただひとり、自分だけ味わうことができるものです。だからその瞬間を味わいたいと思えるような人であれば、進学しても良いかと思います。また研究者としてより高いレベルで活躍したいと考えている人も進学してよいのではないかと思います。

中村:修士課程もしくは博士課程への進学を悩んでいる方も多くいると思いますが、学士課程や修士課程で今何ができるかを考えて行動することが大事だと思います。そこで様々なことを経験し、自分のやりたいことを見つけて、“進学”か“就職”かを決めていけば良いと思います。また、大学院へ進学する場合、英語を扱う機会が増えます。そのため、早い段階で英語に対する苦手意識をなくし、積極的に取り組んでいけたらいいと思います。また大学院に進学すると、学会発表などのプレゼンテーションを行う機会も増えるため、論理的思考力やプレゼン能力などをトレーニングする場として最適なところだと思います。このように自分を高め、研究に楽しみを見出すことができる人は大学院への進学をお勧めします。