研究成果

2021年4月14日

RuO2上での水分解反応へのpH + カチオンによる影響を解明! 水分子ネットワークの重要性が明らかに!

 地球上に豊富に存在する水から、次世代のエネルギーキャリアとして注目されている水素を合成できる「水分解反応」が注目されています。しかし、水から水素を合成する際に同時に進行する酸素発生反応(OER)の反応速度が遅いために、水分解による水素製造プロセス全体の効率は極めて低く、実用化に至っていません。大学院創成科学研究科・化学系専攻の森永 明日香さん(堤研究室・D1)と片山 祐助教(堤研究室)は、マサチューセッツ工科大学(MIT) 、英国インペリアルカレッジロンドン(ICL)、アルゴンヌ国立研究所との国際共同研究にて、特色ある各種オペランド測定法(X線CTR散乱法、表面増強赤外分光法)と第一原理計算を組み合わせることで、酸化ルテニウム(RuO2)表面上でのOERメカニズムを解明しました。
 本研究成果より、これまで未解明だった電解質のpH、さらにはこれまでほとんど考慮されてこなかった電解質のカチオン種がOERメカニズムに大きく影響を与えること、さらにその挙動が電極近くの水分子ネットワークに基づいて理解できることも明らかにしました。今回得られた知見は、既存の反応メカニズムの解釈を拡張するものであり、 OERをはじめとする様々な(電極)触媒材料開発のブレークスルーとなることが期待されます。
この研究成果は「 The Journal of Physical Chemistry C 」誌に掲載されました。

pH- and Cation- Dependent Water Oxidation on Rutile RuO2(110)
Reshma R Rao, Botao Huang, Yu Katayama, Jonathan Hwang, Tomoya Kawaguchi, Jaclyn R. Lunger, Jiayu Peng, Yirui Zhang, Asuka Morinaga, Hua Zhou, Hoydoo You, Yang Shao-Horn The Journal of Physical Chemistry C 2021, ASAP
紙面掲載日: 2021年4月13日

2021年4月9日

独自に開発した青色蛍光染料を使ったバイオイメージング材料の開発に成功

 生体内の代謝活動を分子レベルでとらえることは、生命活動の解明や疾病の予防や治療に不可欠な研究課題ですが、その可視化のために用いられるのがバイオイメージングと呼ばれる研究手法です。これは蛍光材料を生体分子と相互作用する分子に結合させることで、達成されます。生体反応の反応環境はpHや酸化雰囲気などさまざまであり、それらに対応できる蛍光染料を使った新たなバイオイメージング手法の開発が求められてきました。
 大学院生命化学コースの梅本春香さん(2020年修士修了)と上村明男教授と川本拓治助教の研究グループは本学医学系研究科薬理学教室の本田健講師とともに本学独自開発した青色蛍光染料2−スルファニルヒドロキノン二量体を用いて新しいバイオイメージング材料の開発に成功しました。このものは水溶液中でBSAタンパクと結合して青色蛍光を発することを確認し、新規なバイオイメージング材料としての活用が期待できることを示しました。この研究成果はACS Omega誌に掲載されました。

Development of Water Solubility of 2‐Phenylsulfanylhydroquinone Dimer Dye
Akio Kamimura,* Haruka Umemoto, Takuji Kawamoto, and Takeshi Honda*
ACS Omega 2021, 6, 9254–9262: https://doi.org/10.1021/acsomega.1c00703
紙面掲載日: 2021年4月6日

2021年4月9日

新規触媒によりリチウム硫黄電池の性能向上を実現!

 リチウム硫黄電池は、大容量であり、また活物質として大量に存在する硫黄を用いるためコストを下げられるなどの利点から、ポスト「リチウムイオン電池」として注目されています。しかし、充放電を繰り返すことで大幅に性能が低下してしまうなど、実用化には課題が残されています。
 大学院創成科学研究科・化学系専攻の風早 夏帆さん(堤研究室、2020年度修了)と片山助教・堤教授らは、金属と硫黄との間に存在する化学的相互作用に着目し、これを応用した新しいリチウム硫黄電池用電極触媒を開発しました。今回開発した触媒を用いると、
(1)これまでリチウム硫黄電池の課題であった「固体の硫黄⇄液体のポリスルフィド中間体」の変換反応が促進され、反応速度が早くなる
(2)ポリスルフィド中間体を電極近くに引き留めることで、耐久性が向上する
ことが明らかになり、リチウム硫黄電池用電極性能の向上への金属修飾の有効性を明確にしました。
これまでカーボン材料設計が主だったリチウム硫黄電池用電極開発に今回提案した金属修飾法を応用することで、さらなるリチウム硫黄電池性能の向上が期待できます。
 この研究成果は「ChemElectroChem」誌に掲載され、その研究内容がCover Featureに採用されました。

Contribution of Metal Additives on the Electrochemical Process Involving Solid Sulfur and Soluble Lithium Polysulfide in Lithium-Sulfur Batteries
Natsuho Kazahaya, Yu Katayama, and Hiromori Tsutsumi ChemElectroChem 2021, Accepted Manuscript, https://doi.org/10.1002/celc.202100353.
紙面掲載日: 2021年4月6日

2021年4月8日

分子間相互作用を巧みに制御してポリマー電解質のイオン伝導性能の向上に成功!

 リチウムイオン電池のエネルギー密度、安全性の課題を本質的に改善できることから、電解質を固体ポリマー材料に置き換えた「全固体ポリマー電池」が注目されています。しかし、固体であるポリマー電解質の内部でイオンをスムーズに伝導させることは難しく、これが「全固体ポリマー電池」実用化の最大の障壁となっていました。
 大学院創成科学研究科・化学系専攻の山田 耕輝くん(堤研究室、D2)と片山助教・堤教授らは、分子設計が容易なアミド結合を骨格にもつポリマー材料をベースに、その側鎖を設計することでポリマー電解質の内部でのイオン伝導特性を大幅に向上させることに成功しました。赤外分光法などによる検討の結果、適切に側鎖を設計することでポリマー電解質内部の分子間相互作用を制御することができ、その結果イオンが動きやすい環境が得られることがわかりました。
 この成果により、ポリマー電解質内部の「分子間相互作用の制御」がイオン伝導特性向上に重要であることが実験的に明らかになりました。今後はこれを応用することで、ポリマー電解質性能の飛躍的な向上、そして「全固体ポリマー電池」実用化への貢献が期待されます。
 この研究成果は「 Physical Chemistry Chemical Physics 」誌に掲載されました。

Improved ionic conductivity for amide-contained electrolytes by tuning intermolecular interaction: effect of branched side-chains with cyanoethoxy groups
Koki Yamada, Shohei Yuasa, Riho Matsuoka, Ryansu Sai, Yu Katayama, and Hiromori Tsutsumi Physical Chemistry Chemical Physics 2021, Accepted Manuscript, https://doi.org/10.1039/D1CP00852H
紙面掲載日: 2021年4月3日

2021年3月8日

フッ素置換基の簡便な導入法の開発に成功

 大学院創成科学研究科・野口光貴さん(博士前期課程2年),佐々木理緒さん(2017年度修了生),高田凌太朗さん(2017年度卒業生),川本拓治助教,上村明男教授および松原浩教授(大阪府立大学)らは,フッ素置換基の簡便な導入法の開発に成功しました。
 フッ素原子のもつ特異性により,有機フッ素化合物は医薬品や農薬,機能性材料など様々な分野で重宝されています。そのため,効率的なフッ素置換基の導入法の開発が世界中で活発に実施されています。2017年,川本助教らのグループはビニルトリフラートを用いた新しいトリフルオロメチル化反応を報告していますが,ビニルトリフラートの合成には問題がありました。今回,非常にシンプルな方法により,アルキンからワンポットでα-ペルフルオロアルキルケトン化合物を得る手法を見いだしました。得られた有機フッ素化合物は医薬品等への展開が期待されています。

この研究成果は『Organic Letters』誌に掲載されました。
Redox-neutral Tetrafluoroethylation of Aryl Alkynes with 1,1,2,2-Tetrafluoroethane sulfonic acid leading to α-Tetrafluoroethylated Acetophenones
Takuji Kawamoto, Kohki Noguchi, Rio Sasaki, Ryotaro Takata, Hiroshi Matsubara, and Akio Kamimura
Chemistry A European Journal, 2021, accepted, 10.1002/chem. 202100137

2021年3月4日

第四級炭素を持つ1,4-ジカルボニル類の合成を実現:
有機触媒と遷移金属触媒を組み合わせるハイブリッド触媒系が鍵
 山口大学大学院創成科学研究科応用化学分野 西形孝司教授、平田特命助教、本学大学院生の黒瀬さんと石田さんと共に、有機触媒と遷移金属触媒を組み合わせることでケトン誘導体のα位を第三級アルキル化し、立体的にかさ高い第四級炭素を持つ1,4-ジカルボニル類の効率的な合成に成功しました。従来、 1,4-ジカルボニル類は、エノラートカップリングやハロゲン化アルキルとエノラートとの求核置換反応で合成されていました。しかし、この手法では、かさ高い第四級炭素を合成することは非常に困難でした。この原因は、エノラートと立体的に反応点が込み入った構造である第三級アルキル反応剤の活性が非常に低いためでした。そこで、当該グループはピロリジン触媒でケトンをエナミンへと活性化し、このエナミンの炭素―炭素二重結合に対して、ハロカルボニルと銅触媒から生成した第三級アルキルラジカルを付加させる手法を開発することで、問題の解決を果たしました。本手法により、様々な第四級炭素を持つ立体的にかさ高い1,4-ジカルボニル類を合成することが実現しました。
この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』(IF=12.257)に掲載されます。
Direct α-tertiary alkylations of ketones in a combined Cu–organocatalyst system
Ayako Kurose, Goki Hirata, Yuto Ishida, and Takashi Nishikata*
Angewandte Chemie, International Edition, 2021, accepted. doi:10.1002/anie.202016051
紙面掲載日: 2021年3月3日

2021年2月24日

有機ホウ素化合物の新しい合成法を開発

 大学院創成科学研究科・化学系専攻の森岡翼くん(2019年度博士前期課程修了),野口光貴くん(博士前期課程2年),川本拓治助教,上村明男教授およびCurran教授(Pittsburgh大学)らは,蛍光灯照射条件を用いた新しいホウ素化反応を発見しました。
 有機ホウ素化合物は医薬品や農薬,機能性材料の重要な合成中間体です。最近では有機ホウ素化合物そのものが,医薬品や有機EL材料として利用可能であることが明らかとなり,その効率的な合成法の開発が世界中で活発に実施されています。一般に有機ホウ素化合物は,ホウ素原子由来の求電子性を利用して合成されています。一方,2015年の川本助教・Curran教授らによる,ホウ素ラジカルの求核性を利用した有機ホウ素化合物の新しい合成法に関する論文の発表以降,多くの研究グループがそのラジカル種による求核的なホウ素化反応の分野に参入してきています。今回,非常にシンプルかつ穏和な条件下においてα-アミノホウ素化合物を効率的に得る手法を見いだしました。得られたα-アミノホウ素化合物は医薬品等への展開が期待されています。

この研究成果は『Organic Letters』誌に掲載されました。
Inverse Hydroboration of Imines with NHC-Boranes Is Promoted by Diphenyl Disulfide and Visible Light
Takuji Kawamoto*, Tsubasa Morioka, Kohki Noguchi, Dennis P. Curran, and Akio Kamimura
Org. Lett. ASAP https://doi.org/10.1021/acs.orglett.1c00230
紙面掲載日: 2021年2月23日

2021年3月3日

Liイオン電池用電解液中のバルク構造と界面構造を分子レベルで制御

 高電圧・高速充放電を可能とする新規リチウムイオン電池用の研究開発において、 電解液(バルク)や電極界面におけるLiイオン構造は充放電特性を支配する重要因子であり、実験・理論を横断した材料研究が世界的に進められています。
 藤井研究室の澤山沙希さん(博士前期課程2年)は、同専攻の片山祐助教、東ソー・ファインケムとの共同研究により、電解液(バルク)中のLiイオンの溶存状態を分子単位で構造操作することで充放電反応特性を大幅に高める方法論を確立し、これを電解液の不燃化技術と共存させることに成功しました。さらに、電解液のバルク構造が電池反応の反応場となる電極界面構造と連動していること、この関係を利用することで電極反応を分子レベルでデザインするための基礎指針を提案しました。

“Fluorophoshate-Based Nonflammable Concentrated Electrolytes with a Designed L Lithium-Ion-Ordered Structure: Relationship between the Bulk Electrolyte and Electrode Interface Structures”
S. Sawayama, A. Morinaga, H. Mimura, M. Masayuki, Y. Katayama and K. Fujii*
ACS Applied Materials & Interfaces. 13, 2622-2629 (2021).
紙面掲載日: 2021年1月27日

2021年3月3日

Liイオンの輸率”1”を実現する新規Liイオン電池用電解液

 Liイオン電池の研究開発において、Liイオンの動きやすさ(Liイオンの輸率)は電池性能を支配する重要因子の1つです。藤井研究室の柴田雅之君(博士前期課程2年)と藤井准教授は、横浜国立大学・上野グループとの共同研究により、新規な電解質材料として注目されている”溶媒和イオン液体”のアニオン種依存性に着目し、これがLiイオンの溶媒和構造およびイオン輸送特性に及ぼす効果を観点で詳細に解析することで、Liイオン輸率が”1”を実現する電解液を見出すことに成功しました。さらに、特殊なイオン輸送を引き起こすための分子起源を構造・ダイナミクスの観点で可視化することにも成功しており、今後の電解質開発の先導的指針になることが期待されます。
 本成果はイギリス王立化学会のPhys. Chem. Chem. Phys.誌に掲載され、「2021 PCCP HOT Articles」に選出されています。

“Anion effects on Li ion transference number and dynamic ion correlations in glyme–Li salt equimolar mixtures”
K. Shigenobu, M. Shibata, K. Dokko, M. Watanabe, K. Fujii*, and K. Ueno*
Phys. Chem. Chem. Phys. 23, 2622-2629 (2021).
紙面掲載日: 2021年1月14日

2021年1月14日

最短の深紫外波長に変換できる光学結晶を人為的に双晶を導入しながら育成することに成功

 四ホウ酸ストロンチウムSrB4O7は最短の深紫外波長 (125nm)の変換光を発生する波長変換結晶であり、近年、レーザー精密加工技術(マイクロマシーニング)、レーザー/光電子分光や光化学反応など多岐の分野で注目を集めています。特に、周期的に双晶化したSrB4O7結晶は変換光を増幅するため、産業的に期待されています。一方、このような周期的な双晶を含む結晶の育成は結晶成長学的に特に挑戦的な課題とされてきました。大学院創成科学研究科・化学系専攻/工学部・応用化学科の石橋良太君(博士前期課程1年)と麻川明俊助教らは電場を交互に印加しながらマイクロ引き下げ法によるSrB4O7の周期的な双晶を育成に取り組みました。その結果、麻川助教らは印加電圧の増加に伴い2種類の結晶成長メカニズムが存在することを見出しました。中でも興味深いこととして、本研究では1000V/cm以上の電圧を印加すると、直感に反し、双晶境界が結晶の(010)面の成長界面に対し垂直に入ることを明らかにしています。本成果は今後のSrB4O7結晶の周期的な双晶育成に基盤となる重要な発見であり、結晶成長学で最も権威あるCrystal Growth & Design誌 (American Chemical Society (ACS) Publications)に掲載されました。

 論文はこちらより閲覧いただけます。
Effects of the Application of Electric Fields on the Growth of SrB4O7 Crystals by the Micro-Pulling-Down Method
Sho Inaba, Ryouta Ishibashi, Harutoshi Asakawa*, Takaaki Machida, Yuki Hamada, and Ryuichi Komatsu, Cryst. Growth Des. 21, 1, 86–93, (2021): https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.cgd.0c00828
紙面掲載日: 2021年1月7日

2020年11月11日

分光測定×理論計算を駆使してポリマー電解質中でのイオン伝導メカニズムを解明!

 リチウムイオン電池のエネルギー密度、安全性の課題を本質的に改善する電池として、電解質を固体ポリマー材料に置き換えた「全固体ポリマー電池」が注目されています。しかし、固体であるポリマー電解質の内部でイオンをスムーズに伝導させることは難しく、これが「全固体ポリマー電池」実用化の最大の障壁となっていました。
 大学院創成科学研究科・化学系専攻の片山祐助教(堤研究室)は、同専攻の藤井健太准教授(藤井研究室)のグループとの共同研究により、赤外分光法・高エネルギーX線全散乱法などの実験的手法と、分子動力学シミュレーションとよばれる理論的手法を組み合わせることで、ポリマー電解質の内部でのイオン伝導メカニズムの一端を解明しました。今回ターゲットとしたポリマー電解質は堤研究室で生み出されたものですが、その側鎖官能基がリチウムイオンの周囲の局所構造を最適化し、スムーズなイオン伝導を実現していることを見出しました。この成果により明らかとなった、「リチウムイオン周りの局所構造」設計指針は、ポリマー電解質性能の飛躍的な向上、さらには「全固体ポリマー電池」実用化に貢献できるものと期待されます。
 この研究成果は「Macromolecules」誌に掲載され、 その研究内容がSupplemental Coverに採用されました。

Importance of Lithium Coordination Structure to Lithium-Ion Transport in Polyether Electrolytes with Cyanoethoxy Side Chains: An Experimental and Theoretical Approach.
Riho Matsuoka, Masayuki Shibata, Kousuke Matsuo, Ryansu Sai, Hiromori Tsutsumi, Kenta Fujii, and Yu Katayama, Macromolecules, 2020, 53, 9480-9490.
紙面掲載日:2020年11月10日

2020年12月23日

立体的に大きな光学活性エーテル化合物の選択的な合成に成功

 山口大学大学院創成科学研究科応用化学分野 西形孝司教授、関西学院大学理工学部 白川英二教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科 安倍学教授、鳥取大学大学院工学研究科 野上敏材教授、東京工業大学科学技術創成研究院 小池隆司助教らのグループは、炭酸セシウムを塩基とすることで第三級アルキルハロゲン化物(α-ブロモアミド化合物)とアルコールとの立体特異的求核置換反応によるエーテル化合物の合成に成功しました。従来、光学活性な第三級アルキルハロゲン化物を用いる求核置換反応は、その立体障害のため立体特異的反応は困難でした。開発した手法を利用すると、立体的に非常に大きくかつ光学活性な反応部位にアルコールを選択的に反応させることができます。1世紀以上にわたり課題として認識されていた「立体的に大きなアルキルハロゲン化物とアルコールの立体特異的な反応」を達成できた点が本研究のポイントです。
 この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』(IF=12.257)にホットアーティクルとして掲載され,表紙にて研究がハイライトされました (doi:10.1002/anie.202010697)。
論文はこちらより閲覧いただけます。 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202010697

Chemistry of Tertiary Carbon Center in the Formation of Congested C–O Ether Bonds
Goki Hirata, Kentarou Takeuchi, Yusuke Shimoharai, Michinori Sumimoto, Hazuki Kaizawa, Toshiki Nokami*, Takashi Koike*, Manabu Abe*, Eiji Shirakawa*, and Takashi Nishikata*
Angewandte Chemie, International Edition, 2020, Early View. doi:10.1002/anie.202010697
紙面掲載日:2020年10月14日

2020年9月24日

ウォルフレマイト構造をもつナノ粒子触媒を合成,高効率水分解に応用

 水の電気分解は誰もが知っているプロセスですが,最近,炭素を出さないクリーンな水素製造法として再ブレイクしています。水電解のボトルネックは,水素発生(陰極)ではなく,対極,つまり,陽極での酸素発生反応であり,貴金属の代わりに安価な触媒を使って,できるだけ小さなエネルギーで酸素発生反応を達成することが技術的な課題になっています。
 大学院創成科学研究科・化学系専攻/工学部・応用化学科の武田愛理さん(博士前期課程1年)と中山雅晴教授らは,ポリオール法を用いてウォルフレマイト構造をもつナノ粒子の合成に成功しました。ウォルフレマイトは鉄,タングステン,酸素からなる骨格をもち,鉄原子をコバルトに置換することで酸素発生反応に対する活性が変化します。特に,Co:Fe:O比が0.5:0.5:1の触媒は,すべてがコバルトのものや代表的な貴金属触媒であるルテニウム酸化物よりもはるかに高い活性をもつことが明らかになりました。


図(左). (a)TEM写真,(b)HR-TEM写真,(c)制限視野電子回折像,(d)EDSマップ; 図(右). 各触媒の酸素発生電流

Cobalt-substituted iron-based wolframite synthesized via polyol route for efficient oxygen evolution reaction
Masaharu Nakayama*, Airi Takeda, Heishi Maruyama, Vijay Kumbhar, Olivier Crosnier, Electrochem. Commun. 120, 106834 (2020).
紙面掲載日:2020年9月20日

2020年8月28日

低原子価金属イオンのドープによるSrTiO3光触媒の水分解反応に対する高活性化要因の解明

 SrTiO3光触媒の水分解反応に対して光触媒活性を実用化のレベルまで画期的に改善できる低原子価の金属イオンをドープする手法に関して、この方法は特定のSrTiO3にのみ有効でありその理由が不明であること、さらに低原子価金属イオンドープによる光触媒活性の大幅な改善機構に関して実験事実に基づいた議論がなされていませんでした。大学院創成科学研究科博士後期課程のJunzhe Jiangさん、酒多喜久教授の研究グループは藤森宏高准教授、豊田工業大学の山方啓准教授の研究グループと共同して、Na+イオンドープSrTiO3光触媒について、高純度原料から合成したSrTiO3にNa+イオンをドープすることが、高活性化する要件であることを解明し、さらに、ドープしたNa+イオンはSrTiO3バルク中のSr2+イオンと置換してバルク中に酸素欠陥を生じさせることで、光照射で生成した電子と正孔の分離を促進させ、それが水分解反応に対する光触媒活性を大幅に向上させることを明らかにしました。
この研究成果は、J. Catalysisに掲載されました。

Investigation on the Highly Active SrTiO3 Photocatalyst toward Overall H2O Splitting by Doping Na Ion, Junzhe Jiang, Kosaku Kato, Hirotaka Fujimori, Akira Yamakata, and Yoshihisa Sakata *, J. Catal., 390, 81-89 (2020). https://doi.org/10.1016/j.jcat.2020.07.025.
紙面掲載日:2020年8月28日

2020年8月27日

合計6つの結合形成−開裂がドミノ倒しのように一気進行する新規なピペリジンの立体選択的合成法

 ピペリジンは窒素を含む6員環化合物で、生理活性物質などによく見られる分子構造です。応用化学科有機合成化学研究室の上村明男教授と川本拓治助教のグループは、この骨格を構築するためにラジカルカスケード反応(多くの反応がドミノ倒しのように連続的に一気に進行する反応)によって立体選択的に合成する新しい方法を見いだしました。この方法では、発生させたトリフェニルスズラジカルが環化前駆体の1,6-エンイン1に対して付加反応することで後続する環化反応やスズの移動反応などの合計6つの結合形成または開裂反応がドミノ倒しのように一気に進行してピペリジン2を与えます。反応は立体選択的に進行し、2,3-cis体のみが選択的に得られ、5−アルキリデン基もE-選択的に形成されることがわかりました。この報告はEur. J. Org. Chem. 誌に掲載されました。

Highly cumulated radical cascade reaction of aza-1,6-enyenes: Stereoselective synthesis of exo-methylene piperidines, Akio Kamimura,* Tomoyuki Itaya, Tatsuro Yoshinaga, Ryo Nozawa, Takuji Kawamoto, Michinori Sumimoto, and Hidemitsu Uno, Eur. J. Org. Chem. 2020, 1700 - 1707:
http://dx.doi.org/10.1002/ejoc.202000034.
紙面掲載日:2020年8月27日

2020年7月13日

工業用電解二酸化マンガン(EMD)を酸素反応のバイファンクショナル触媒に

 酸素発生反応(OER)および酸素還元反応(ORR)は,エネルギー関連化学におけるキーリアクションです。特に,金属空気電池を二次電池化する(充電可能にする)ためには,空気側正極材料として,OERにもORRにも活性な“バイファンクショナル”触媒を開発する必要があります。ところが,OERとORRは互いに逆反応の関係にあるため,両方を活性化することは困難でした。大学院創成科学研究科の上田祐司君(博士前期課程2年),中山雅晴教授,東ソー株式会社の藤本航太朗氏らの研究グループは,マンガン乾電池用に製造されている電解二酸化マンガンの結晶構造の中に,OERが得意なサイト(Co3+)とORRが得意なサイト(Mn3+)を組み込み,かつお互いの機能を邪魔しないように配置することで,OERにもORRにも高活性かつ安定なバイファンクショナル触媒の開発に成功しました。

Cobalt-doped electrolytic manganese dioxide as an efficient bifunctional catalyst for oxygen evolution/reduction reactions
Kotaro Fujimoto, Yuji Ueda, Daijiro Inohara, Yasuhiro Fujii, Masaharu Nakayama*, Electrochim. Acta, 136592 (2020).
紙面掲載日:2020年7月3日

2020年6月1日

世界初、100%に近い量子収率で水を分解する究極の光触媒

 山口大学大学院創成科学研究科、博士後期課程3年Junzhe Jiangさん、酒多喜久教授の研究チーム、信州大学先鋭材料研究所、東京大学大学院工学系研究科、産業技術総合研究所ナノ材料研究部門の研究グループが人工光合成化学プロセス技術組合との共同により、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「二酸化炭素原料化機関化学品製造プロセス技術開発」事業の一環として行った研究で、光触媒による水分解反応において、光触媒により吸収された光を100%に近い光子の利用効率(量子収率)で利用して水を水素と酸素に分解する光触媒を開発し、その動作原理を初めて実証しました。
 光触媒とした材料は異なる結晶面が露出したAlドープSrTiO3の微粒子に、水素生成点としてRh/Cr2O3を、酸素生成点としてCoOOHを、光励起により生じた電子と正孔が光触媒粒子内部に生じる電場によって異方的に移動することを利用して、それぞれを別々の結晶表面に選択的に析出させた材料です。この材料を光触媒として用いることにより、光照射により発生した電子と正孔が空間的に分離され、再結合することなく、ほぼ100%の効率で水分解反応を進行させることに成功しました。
一方、本研究で用いたSrTiO3は近紫外光までしか利用できず、太陽光を利用するには限界がありますが、微粒子状の光触媒で水分解反応を高い量子収率で進行させるための明確な動作原理が実証されたことで、今後、本研究で得られた成果は、太陽光の大部分を占める可視光を高効率で利用して水の分解反応を進行させることができる光触媒の開発に関して重要な知見を与える成果となります。

詳細はこちら
 NEDOのニュースリリース
 https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101311.html
 本研究の成果は、Natureに掲載されました。

Photocatalytic water splitting with a quantum efficiency of almost unity
Tsuyoshi Takata, Junzhe Jiang, Yoshihisa Sakata, Mamiko Nakabayashi, Naoya Shibata, Vikas Nandal, Kazuhiko Seki, Takashi Hisatomi, Kazunari Domen
Nature , 581 , 411–414 (2020)  DOI 10.1038/s41586-020-2278-9
紙面掲載日:2020年5月29日

2020年5月12日

オペランド観察×理論計算を駆使してRuO2上での酸素発生反応メカニズムを解明!

 地球上に豊富に存在する水から合成可能な水素は、次世代のエネルギーキャリアとして注目されています。しかし、現時点では、水素は化石燃料から製造されている場合がほとんどです。これは、水から水素を合成する際に同時に進行する酸素発生反応(OER)の反応速度が遅いために、水分解による水素製造プロセス全体の効率が低下してしまうためです。酸素発生反応(OER)の反応速度向上のためには、その複雑な反応メカニズムの理解が必須です。これまで、理論計算などの手法を用いて様々な反応メカニズムが提案されてきましたが、統一的な理解には至っていません。
 大学院創成科学研究科・化学系専攻の片山 祐助教(堤研究室)は、マサチューセッツ工科大学(MIT) を中心とした国際共同研究(*1)にて、特色ある各種オペランド測定法(X線CTR散乱法、表面増強赤外分光法)と第一原理計算を組み合わせることで、OER活性が高いことが報告されていた酸化ルテニウム(RuO2)表面上でのOERメカニズムを解明しました。
 本研究成果より、これまで触媒設計の際に重要視されてきたバルクの電子状態だけでなく、表面の各原子サイトの配列が活性の鍵となること、さらにその理由も明らかとなりました。これは既存の方法とは一線を画する触媒設計指針であり、 OERをはじめとする様々な(電極)触媒材料開発のブレークスルーとなることが期待されます。
 本研究の成果は、Natureグループが出版する触媒化学のトップジャーナル「Nature Catalysis」に掲載されました。

(*1) マサチューセッツ工科大学(米国)・デンマーク工科大学(デンマーク) ・インペリアルカレッジロンドン(英国) ・SLAC国立加速器研究所(米国) ・アルゴンヌ国立研究所(米国)からなる研究グループ

Operando Identification of Site-Dependent Water Oxidation Activity on Ruthenium Dioxide Single-Crystal Surfaces

Reshma R Rao, Manuel J Kolb, Livia Giordano, Anders Filsøe Pedersen, Yu Katayama, Jonathan Hwang, Apurva Mehta, Hoydoo You, Jaclyn R Lunger, Hua Zhou, Niels Bendtsen Halck, Tejs Vegge, Ib Chorkendorff, Ifan E.L. Stephens, Yang Shao-Horn
Nature Catalysis 2020
紙面掲載日:2020年5月11日

2020年6月3日

塩素ガスの発生を抑え,酸素のみを発生するバイレイヤー構造電極

 外部電源方式の電気防食において,防食対象である鉄鋼材料の対極,すなわち陽極には白金や貴金属酸化物が一般に用いられています。しかし,これらの陽極材料は,①毒性を有する塩素ガスが発生し易い,②希少・高価である,③長期間の使用によって性能が低下する,などの問題を抱えています。
 大学院創成科学研究科の岡田拓弥君(2019年度博士前期課程修了),中山雅晴教授,株式会社ナカボーテックの阿部 光氏らの研究グループは,藤井健太准教授と協力して,塩化物イオンを含む環境でも塩素ガスが発生しない陽極の開発に成功しました。この陽極材料はマグネシウムをサンドイッチしたコバルト複合二酸化マンガン(Mg|Co-MnO2)薄膜を水酸化コバルト(Co(OH)2)に被覆したバイレイヤー構造からなり,Mg|Co-MnO2が塩化物イオン(図中赤)の拡散を抑制しながら水電解のみが進行行することで,塩素ガスを発生することなく,鉄鋼材料の電気防食が可能です。

A Bilayer Structure Composed of Mg|Co-MnO2 Deposited on a Co(OH)2 Film to Realize Selective Oxygen Evolution from Chloride-Containing Water.
Takuya Okada, Hikaru Abe, Ai Murakami, Tomohito Shimizu, Kenta Fujii, Toru Wakabayashi, Masaharu Nakayama*, Langmuir 36, 5227–5235 (2020)

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紙面掲載日:2020年4月29日

2020年5月29日

亜鉛を挿入した積層二酸化マンガンを水性亜鉛イオン二次電池の正極に

 有機溶媒を使用しない水性亜鉛イオン二次電池は,高い安全性から注目が集まっています。その安全性を最大限発揮するためには「ウエアラブル」にすることが好ましいと考えます。ウエアラブルな電池にするためには,キャリアーである亜鉛イオンを効率良く収容(および放出)することができ,かつ加工性に富むホスト材料の開発が必要です。
 大学院創成科学研究科・化学系専攻の片岡風凱君(2019年度博士前期課程修了)と中山雅晴教授らは,山吹一大講師と協力して,二酸化マンガンシート間に亜鉛イオンをサンドイッチした薄膜を,炭素繊維に被覆させた正極材料を開発しました。この正極と亜鉛シート負極に組み込んだ水性電池は速く,可逆で安定な充放電応答を示しました。

Cobalt-Doped Layered MnO2 Thin Film Electrochemically Grown on Nitrogen-Doped Carbon Cloth for Aqueous Zinc-Ion Batteries.
Fuga Kataoka, Tomoya Ishida, Kenji Nagita, Vijay Kumbhar, Kazuhiro Yamabuki, Masaharu Nakayama*, ACS Appl. Energy Matter. 3, 4720 –4726 (2020).

紙面掲載日:2020年4月24日

2020年4月23日

アミノ酸前駆体シッフ塩基をラジカル的に変換することに成功―立体的に込み入った非天然アミノ酸誘導体合成が容易になる

 九州大学大学院薬学研究院矢崎亮助教、大嶋孝志教授と山口大学大学院創成科学研究科の西形孝司教授らは、銅触媒存在下、アミノ酸前駆体であるシッフ塩基①と立体的に大きな第三級アルキル構造を持つαブロモカルボニル②をクロスカップリングさせる反応を発見しました。
 従来、立体的に込み入った分子フラグメントを結合させることは、高いエネルギーを要するため非常に困難でした。今回、この課題をラジカル種という非常に高活性な化学種を価数の異なる遷移金属を制御することで解決しました。シッフ塩基①は二価銅との反応で、そして、αブロモカルボニル②は一価銅との反応でそれぞれラジカル種という高反応性科学種を発生させることが可能です。この技術を用いると従来では形成が困難な非常に込み入った結合を持つ生成物③を得ることができます。この生成物を加水分解することで非常に大きな非天然アミノ酸へと誘導することが可能です。
 この研究成果は『Journal of the American Chemical Society』(IF=14.695)に掲載されました。

Amino Acid Schiff Base Bearing Benzophenone Imine As a Platform for Highly Congested Unnatural α-Amino Acid Synthesis
Yohei Matsumoto, Jun Sawamura, Yumi Murata, Takashi Nishikata*, Ryo Yazaki*, Takashi Ohshima*
Journal of the American Chemical Society, 2020, asap. doi:10.1021/jacs.0c02707
紙面掲載日:2020年4月22日

2020年5月18日

水への溶解性を簡単にコントロールできる新規イオン液体(物理化学的特性)

 イオン液体は水や有機溶媒など、従来までの分子性溶媒にはない材料特性を有しており、分子構造を設計し、構成イオンを組み変えることで溶媒特性を自由自在に制御できる特徴を有しています。当学科の上村研究室では最近、有機化学の分野で広く用いられている「保護基の化学」をイオン液体の機能設計に応用し、陽イオンにアセタール保護基の脱着機能を導入することで、水への溶解性(疎水性/親水性)を可逆的にオン/オフできる「スイッチングイオン液体」を報告しています。
 藤井研究室の大久保晃太くん(博士前期課程2年)は、上村グループとの共同研究により、(1) 放射光X線散乱(@SPring-8施設)と計算機シミュレーションを組み合わせた独自の構造解析手法を新規スイッチングイオン液体に適用し、(2) スイッチングイオン液体の基礎物性を支配するイオン間相互作用を分子・原子レベルで可視化することに成功、(3) スイッチオン/オフ前後の物性と構造の相関関係について議論しました。今回の成果は、当グループが提案した新規イオン液体の特異性を浮き彫りにする本質的知見であり、今後の応用展開が期待されます。

“Physicochemical and Structural Properties of a Hydrophobicity/ Hydrophilicity Switchable Ionic Liquid”
K. Ohkubo, K. Yanagisawa, A. Kamimura, and K. Fujii*
J. Phys. Chem. B, 124, 3784-3790 (2020).
紙面掲載日: 2020年4月15日

2020年3月27日

放射光X線散乱により新規レドックスフロー電池用電解液の溶液構造を可視化

 電解液は、電池やキャパシタなどの電気化学蓄電デバイスを構成する根本材料のひとつです。電解液の電気化学的・物理化学的特性は、電解質塩と溶媒の種類や組み合わせにより制御することができ、近年では、「塩濃度」が電解液特性、ひいてはデバイス特性を支配する重要因子であることが報告されています。藤井研究室の 鶴村達也くん(博士後期課程3年)と大久保晃太くん(博士前期課程1年)は、レドックスフロー電池用の新規電解液として注目されている「濃厚Ti-硫酸水系電解液」中に着目し、放射光施設(SPring-8)による高エネルギーx線散乱実験を基軸として、電気化学反応を支配するTiイオンの錯体構造を分子レベルで明らかにしました。濃厚電解液中のTiイオン(4価)は特殊な多核錯体を形成すること、この特殊構造は電気化学的還元(4価→3価)により崩壊し、単核錯体として再構造化すること等、電池反応に伴うTiイオンの溶存状態を特定することに成功しました。

“Structural study on Ti-ion complexes in concentrated aqueous electrolytes: Raman spectroscopy and high-energy X-ray total scattering”
T. Tsurumura, K. Ohkubo, T. Tanaka, and K. Fujii*
J. Mol. Liquids, 305, 12867 (2020).
紙面掲載日:2020年3月10日

2020年3月27日

リチウムイオンの配位が誘起する高分子コンフォメーション変化を分子レベルで可視化

 イオン液体と高分子を組み合わせたソフトマテリアルは、不燃性・不揮発性や高いイオン伝導性を兼ね備えた新規高分子材料として世界中で研究開発が進められています。溶媒となるイオン液体にリチウム塩を溶解するとリチウムイオン電池用の電解液として機能することが知られており、このイオン液体電解液を高分子を用いて固体化(ゲル化)することで、柔軟かつ安全な擬個体電解質を合成することができますが、その基礎物性・電気化学特性を支配する「高分子鎖とリチウムイオンの間に働く相互作用」は分子レベルではよく分かっていません。
 藤井研究室の上山祐史くん(博士前期課程2年)は、放射光X線散乱(@SPring-8施設)と計算機シミュレーションを組み合わせた独自の研究手法により、イオン液体中の「高分子-リチウムイオン相互作用」を分子レベルで可視化することに成功し、(1)ポリエチレングリコール鎖にはイオン液体成分よりもリチウムイオンが選択的に配位すること、(2) リチウムイオン配位により高分子鎖のコンフォメーション変化が誘起され、よりコンパクトな溶存構造をとることを明らかにしました。これらの結果は、金属イオンを含む電気化学デバイス用ゲル電解質の基礎特性に関わる本質的な知見であり、今後の応用展開が期待されます。

"Lithium-ion coordination-induced conformational change of PEG chains in ionic-liquid-based electrolytes"
Y. Kamiyama, M. Shibata, R. Kanzaki, and K. Fujii*
Phys. Chem. Chem. Phys., 22, 5561-5567 (2020).
紙面掲載日:2020年2月24日

2020年3月17日

‘‘Salting-In’’現象を利用した新規イオンゲル電解質の合成・応用

 不燃性、高いイオン伝導性を示す「イオン液体」は電気化学デバイス用電解質として広く研究されており、中でも、ホスホニウム陽イオンからなるイオン液体は極めて優れた電気化学安定性を示すことが知られています。しかしながら、ホスホニウム型イオン液体は一部の高分子との相溶性が著しく低く、例えば、汎用的な高分子であるポリエチレングリコール(PEG)はこの種のイオン液体中に全く溶解しないため、実用を想定した「材料化(固体化)」の面で大きな課題を抱えていました。
 藤井研究室の松浦沙樹さん(博士前期課程1年)は、電解質塩を溶液中に添加することで発現する塩溶効果(Salting-in)に着目し、これを利用してホスホニウム型IL中にPEG鎖を均一に溶解することで、透明で強靭な高分子ゲル膜を合成することに成功しました。このゲル膜は、ホスホニウム型イオン液体の特徴(高い電気化学的安定性)を保持したまま、4倍程度の延伸に耐えることができ、さらに、リチウムの可逆的な溶解析出反応が可能であるなど、蓄電デバイス用固体電解質として優れた特性を示すことを見出しました。

“Polymer Gel Electrolyte Prepared by ‘‘Salting-In’’ Poly(ethylene glycol) into a Phosphonium-Based Ionic Liquid with a Lithium Salt”
S. Matsuura, M. Shibata, J. Han, and K. Fujii*
ACS Appl. Polym. Mater., 2, 1276-1282 (2020).
紙面掲載日:2020年2月10日

2020年2月28日

機能性溶媒和イオン液体を用いた新しいタイプのリチウム二次電池を開発!
 溶媒和イオン液体は、その優れた特性から次世代のリチウム二次電池への応用が期待されています。従来の溶媒和イオン液体は、リチウムを溶媒和した錯カチオン部位とその電荷的中性を保つアニオン部位から成っていました。大学院創成科学研究科修士卒の検見崎裕太さん(堤研究室)は、横浜国立大学上野和英准教授との共同研究にて、新たにアニオン部位にレドックス特性を付与した、二機能性溶媒和イオン液体を開発しました。さらに、今回開発した二機能性溶媒和イオン液体をカソライトとして用いた、全く新しいリチウム二次電池を構築し、二機能性溶媒和イオン液体の蓄電デバイスへの応用可能性を示しました。

本研究の成果は、英国王立化学会(RSC)が出版するオープンアクセスジャーナル「RSC Advances」に掲載されました。

Redox-active glyme–Li tetrahalogenoferrate(iii) solvate ionic liquids for semi-liquid lithium secondary batteries

Yuta Kemmizaki, Yu Katayama, Hiromori Tsutsumi, and Kazuhide Ueno
RSC Advances 2020, 10, 4129-4136.
紙面掲載日:2020.1.17

2020年1月16日

立体的に込み入った部位へのシアノ化反応を開発―非天然アミノ酸ユニットを持つペプチド医薬への応用に期待

 創成科学研究科応用化学分野の西形孝司准教授らと九州大学先導物質化学研究所の國信洋一郎教授らは、銅触媒存在下、炭素-臭素結合を持つカルボン酸誘導体基質に対して安定なシアン化亜鉛を用いた銅触媒シアノ化反応を発見しました。
 シアノ基はアミノ基などの機能性官能基への変換が容易なため、有用物質合成、特にアミノ酸合成に不可欠な官能基です。これまでにイオン反応を用いる求核的シアノ化反応が開発されてきましたが、立体的に込み入った部位へのシアノ化は困難であるという欠点がありました。
 本研究で開発されたシアノ化反応は、安定で比較的毒性の低いシアン化亜鉛を用いることが可能である点、そしてカルボン酸誘導体中のアミド結合に銅が配位することで立体的に込み入った反応部位でシアノ化が進行する点が画期的な特徴として挙げられます。また、ペプチド鎖を持つ基質に対してもシアノ化が進行することから、本反応を応用することで非天然アミノ酸ユニットを持つペプチドを合成可能であることも示しました。ペプチド医薬などへの応用が期待されます。
 この研究成果は『the Journal of the American Chemical Society』(IF=14.695)に掲載されました。

Copper-Catalyzed Tertiary Alkylative Cyanation for the Synthesis of Cyanated Peptide Building Blocks
Miwa, Naoki ; Tanaka, Chihiro; Ishida, Syo; Hirata, Goki; Song, Jizhou; Torigoe, Takeru; Kuninobu, Yoichiro*; Nishikata, Takashi*
Journal of the American Chemical Society, 2020, asap. doi:10.1002/jasc.202006293

Web公開日:2020.1.16

2020年1月15日

リアルタイム解析によりLi-ion二次電池電極表面での反応を解明!

 リチウムイオン電池は、その発明に対して2019年のノーベル化学賞が授与されるなど、私たちの生活に欠かすことができないものです。その性能向上にむけた研究開発は世界中の大学・企業で精力的に行われていますが、依然としてその充放電メカニズムの全容は明らかにできていません。大学院創成科学研究科・化学系専攻の片山祐助教(堤研究室)は、マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科Yang Shao-Horn教授のグループとの国際共同研究にて、特色ある赤外分光測定法を用いることでリチウムイオン電池電極表面で進行する反応の一端を解明しました。
 本研究により、電解質として一般的に使用されているカーボネート系有機溶媒が電極表面で進行する反応に大きな影響を及ぼすこと、さらにその詳細なメカニズムが明らかとなりました。本研究の成果は、今後のリチウムイオン電池の電解質設計、電極表面コーティング材料の設計などの有用な指針となることが期待されます。
Revealing electrolyte oxidation via carbonate dehydrogenation on Ni-based oxides in Li-ion batteries by in situ Fourier transform infrared spectroscopy
Yirui Zhang(co-first), Yu Katayama(co-first), Ryoichi Tatara, Livia Giordano, Yang Yu, Dimitrios Fraggedakis, Jame G. Sun, Filippo Maglia, Roland Jung, Martin Z. Bazant , and Yang Shao-Horn
Energy Environ. Sci., 2020, Advance Article

紙面掲載日:2020年予定

2019年12月16日

化学反応によってON/OFF可能な新しい青色蛍光色素を開発:Chemistry-A European Journalの表紙として採択

 蛍光色素は機能性材料や生化学反応の追跡手段として広い用途がありますが、化学反応によって蛍光特性が大きく変化する色素は、化学反応や生化学反応をリアルタイムにモニターできることから、広く注目されています。蛍光色素はこれまでに知られた骨格のものが多く用いられているものの、蛍光色や発光効率などで新たな光物性を持つものが今も求められており、新たな蛍光材料の開発はこの分野における重要な研究課題です。応用化学科の上村・川本研究室ではこれまでに入手容易なキノンとチオールから容易に合成可能な2−スルファニルヒドロキノン二量体が、青色蛍光色素となることを発見してきましたが、その後の研究によって、4つあるフェノール性水酸基に導入する電子求引性の数によって蛍光特性が大きく変化することを見いだしました。そしてアシル基の脱着によって、蛍光特性のON/OFFのスイッチングができることを見いだしました。この結果はこの蛍光色素を生化学反応のリアルタイムモニターとしての応用に道を開いた成果として今後の展開が期待されます。この研究は科学研究費補助金(基盤研究Bおよび挑戦的萌芽研究)の助成を受けて実施し、Chemistry-A European Journal (IF = 5.16/2018年)に掲載されました。またこの研究成果のイラストが同誌の本論文掲載号の表紙を飾りました。

2-Sulfanylhydroquinone dimer as a switchable fluorescent
Akio Kamimura,* Sanshiro Sakamoto, Haruka Umemoto, Takuji Kawamoto, and Michinori Sumimoto
Chem. Eur. J. 2019, 25, 14081 – 14088 : https://doi.org/10.1002/chem.201903436
Selected as a cover page of the issue: https://doi.org/10.1002/chem.201904089

紙面掲載日:2019.12.16

2019年12月4日

堤研究室 博士前期課程1年の森永明日香さんの研究成果がChemPhysChem誌に掲載、表紙を飾りました。

 電気化学的に水から水素や酸素を取り出す水分解反応は、将来の水素社会を支える重要なプロセスとして期待されています。しかしながら、触媒活性、特に水を酸化させて酸素を生成する反応(OER)の活性が低いことが問題となっています。
大学院創成科学研究科・堤研究室の森永明日香さんは、価格が比較的安い銅触媒に着目し、そこに電界紡糸法を組み合わせることによって、スケーラブルな方法で物質の輸送に優れたファイバー状三次元構造を持つ触媒の調製に成功しました。得られた触媒は既存の銅触媒より格段に高いOER活性を示すとともに、優れた耐久性を有していることを明らかにしました。本研究で用いた電界紡糸法は、魅力的な化学プロセスである電気化学的水分解反応のための高活性触媒開発の新たな手法となることが期待されます。
 この研究成果は「ChemPhysChem」誌の電気化学特別号に掲載され、その研究内容が表紙に採用されました。

Electrospun Cu-deposited Flexible Fibers as an Efficient Oxygen Evolution Reaction Electrocatalyst
Asuka Morinaga, Hiromori Tsutsumi, Yu Katayama
ChemPhysChem 20, 2973-2980 (2019).

紙面掲載日:2019.11.19

2019年7月26日

電気化学反応における「シングルイオン触媒」という概念

 バルクの金属酸化物をナノサイズまで微細化すれば触媒活性が向上することが知られています。さらに究極的に微細化したものが金属錯体です。これは均一系触媒,つまり溶液系と同じ意味です。均一系では,触媒の利用率は最大になりますが,生成物の分離回収が困難,触媒を再利用できない,という問題があります。一方,ゼオライト・クレイ等の無機多孔体に金属イオンを担持すれば,孤立したイオン(=シングルイオン)を得ることはできますが,これらの担体は絶縁性であるため,固定した錯体を電気化学的に活性化することはできません。均一系触媒についても同じことが言えます。
 大学院創成科学研究科・化学系専攻の鈴木かのんさん(2018年度博士前期課程修了),中山雅晴教授らは,藤井健太准教授といっしょに,電極上に形成した二酸化マンガンシート間にニッケルイオンを導入し,その構造と電気化学特性,触媒特性を調べました。ニッケルイオンが6水和錯体として二酸化マンガンシート間で孤立した状態のまま電子を授受すること,そしてエタノールに対してニッケル酸化物触媒よりもはるかに高い触媒活性を示すことが明らかになりました。ニッケルは「シングルイオン触媒」として働いており,その結果,高い利用率と速い電子移動をもたらしたと考えられます。

Single-ion catalyst of Ni2+ anchored in the interlayer space of layered MnO2 for electro-oxidation of ethanol in alkaline electrolyte
Masaharu Nakayama*, Kanon Suzuki, Kenta Fujii, Electrochem. Commun. 105, 106492 (2019).

発行日:2019.7.9

2019年7月2日

イオン液体電解液中での「in-situゲル化法」を確立、電気二重層キャパシタに応用

 陽イオンと陰イオンのみで構成されるにも関わらず液体状態を示す「イオン液体」を溶媒として用いる蓄電デバイス用電解液は、高いイオン伝導性と安全性(不揮発性・不燃性)を兼ね備えた新規材料として活発に研究が進められています。しかしながら、このイオン液体、さらには電解質塩を溶解したイオン液体電解液は、複数のイオンが「中性溶媒の存在無し」で溶存した多成分複雑溶液であるため、これを反応場とする化学反応(電子移動反応、高分子架橋反応など)の反応機構や反応熱力学はよく分かっていません。
 藤井研究室の吉武真理さん(2018年度卒・博士前期課程)と韓智海さん(博士後期過程2年)は、4つ又に分岐した高分子をイオン液体反応場中、室温条件下にて直接架橋反応、ゲル化することに成功し、その反応機構を化学反応速度論の観点で明らかにしました。この知見に基づき、電気化学セル中に高分子溶液を注入するだけで任意の時間後にゲル化が起こる「in-situゲル化法」を提案し、これが電気二重層キャパシター用電解質として優れた特性を示すことを報告しました。この成果をまとめた論文は、日本化学会・欧文誌「Chemistry Letters」の優秀論文(Editor’s Choice)に選定され、研究内容がInside Coverで紹介されています。

“TetraPEG Network Formation via a Michael Addition Reaction in an Ionic Liquid: Application to Polymer Gel Electrolyte for Electric Double-layer Capacitors”
M. Yoshitake, J. Han, T. Sakai, M. Morita, and K. Fujii*
Chem. Lett., 48, 704-707 (2019).

発行日:2019.5.24

2019年5月31日

電解液中の溶媒和Liイオンを“構造操作”することで電極反応を制御できる

現行のリチウムイオン電池用電解液は「カーボネート系溶媒中にリチウム塩を1 M程度で溶解した有機電解液」が常識として定着しており、これ以外の有機溶媒を使用した電解液系では良好な充放電反応が起こらず、二次電池を構築することができません。藤井研究室の澤山沙希さん(修士1年)は本論文において、 「カーボネート以外のモデル溶媒」として不燃性を有するフッ素化リン酸エステル(TFEP)を選択し、希薄Li塩濃度(1M以下)の電解液中において電極反応を引き起こすための方法論を報告しました。①振動分光スペクトルおよび高エネルギーX線全散乱スペクトルの精密解析、②分子動力学シミュレーションによる構造可視化、を通じて電解液中のLiイオンの溶媒和状態を分子レベルで特定し、その溶媒和状態を「構造操作」することで電池電極反応(グラファイト負極)の反応性が劇的に向上することを見出しました。この成果は、経験則のみで行われてきたこれまでの電解液設計とは一線を画し、分子論に裏打ちされた新しい設計方針を提案するものであり、今後の展開が期待されます。

“Fluorinated alkyl-phosphate-based electrolytes with controlled lithium-ion coordination structure”
S. Sawayama, Y.M. Todrov, H. Mimura, M. Morita, and K. Fujii*
Phys. Chem. Chem. Phys., 21, 11435-11443 (2019).

発行日:2019.5.15

2019年4月11日

リチウムイオン電池用の新規電解液中で形成する”特殊なイオン秩序構造”は溶媒分子のサイズによって制御できる

 リチウムイオン電池の“電解液”の性能はリチウム塩の濃度に強く依存しており、その濃度を極限まで高めることで、従来までの希薄系電解液(イオン濃度は1 M程度)とは全く異なる機能を持つようになります。この「超濃厚電解液」は、実用レベルの電気化学デバイス用液体材料として注目を集めており、基礎から応用、実験から理論を横断した多角的研究が世界的に進展しています。

 藤井研究室の十川みちるさん(2018年度卒・博士前期課程)は、超濃厚電解液の特性を支配する特殊な溶液構造、すなわち、「リチウムイオンが長距離スケールで連結したイオン秩序構造」に着目し、その形成メカニズムや構造を規定する因子特定を目的として放射光研究施設・SPring-8での高エネルギーX線全散乱実験と計算機シミュレーションを組み合わせた精密構造解析を行いました。結果として、(1)リチウムイオンの秩序化は溶媒分子の”サイズ”に依存すること、(2)溶媒サイズが小さくなるほど構造秩序性が増大し、このことが電池電極反応(グラファイト負極)の反応性と直接相関していることを明らかにしました。 この成果は、超濃厚電解液の機能発現メカニズムを理解する上で本質的な知見であるのに加え、電池電解液の性能を分子レベルで操作し、最適化するための基盤指針となることが期待されます。

“Role of Solvent Size in Ordered Ionic Structure Formation in Concentrated Electrolytes for Lithium-Ion Batteries” M. Sogawa, S. Sawayama, J. Han, C. Sato, K. Ohara, M. Matsugami, H. Mimura, M. Morita, and K. Fujii* J. Phys. Chem. C,

発行日:2019.3.15

2019年3月22日

電気化学的CO2変換反応の反応選択性は触媒表面上の反応中間体の結合様式によって理解できる

 温室効果ガスの一つである二酸化炭素の大気中濃度は増加の一途をたどっており、その削減にむけて産官学をあげて様々な取り組みがなされています。その中でも、二酸化炭素を電気化学的に有用な物質に変換するプロセスの実現が期待されています。Cu触媒はその活性が高いことが以前から知られていますが、その反応選択性に課題があり、実用化に至っていません。

 大学院創成科学研究科・化学系専攻の片山祐助教は、マサチューセッツ工科大学機械工学科Yang Shao-Horn教授、スイス連邦工科大学ローザンヌ校Nicola Marzari教授のグループとの国際共同研究により、Cu表面で進行する電気化学的CO2変換反応のメカニズムを明らかとしました。本研究では、Ambient-Pressure XPS測定、In situ SEIRA測定という2つの実験的手法と、溶媒の影響を加味した第一原理計算を組み合わせることで、その反応メカニズムの詳細を解明しました。本研究は、魅力的な化学プロセスである電気化学的CO2変換反応触媒を設計する際の有用な指針となることが期待されます。

 この研究成果は「Journal of Physical Chemistry C」に掲載され、 その研究内容が表紙に採用されました。
An In Situ Surface-Enhanced Infrared Absorption Spectroscopy Study of Electrochemical CO2 Reduction: Selectivity Dependence on Surface C-Bound and O-bound Reaction Intermediates
Yu Katayama, Francesco Nattino, Livia Giordano, Jonathan Hwang, Reshma R. Rao, Oliviero Andreussi, Nicola Marzari, and Yang Shao-Horn, J. Phys. Chem. C , 123, 5951-5963 (2019).

発行日:2019.3.14

2019年3月1日

塩素ガスの発生を抑制できる電気防食用陽極材料の開発

 外部電源方式の電気防食において,防食対象である鉄鋼材料の対極,すなわち陽極には白金や貴金属酸化物が一般に用いられています。しかし,これらの陽極材料は,①腐食性および毒性を有する塩素ガスが発生し易い,②希少・高価である,③長期間の使用によって性能が低下する,などの問題を抱えています。

 大学院創成科学研究科・化学系専攻/工学部・応用化学科の小早川民江さん(博士前期課程2年),丸山平嗣君(博士前期課程1年),中山雅晴教授らは,防食大手株式会社ナカボーテックの阿部 光氏らといっしょに,海水など,塩化物イオンを含む環境でも塩素ガスが発生しない陽極の開発に成功しました。この陽極材料はマグネシウムをサンドイッチした二酸化マンガン薄膜(図中Mg-Busと表記)をイリジウム酸化物/チタン基材に被覆したものであり,Mg-Busが塩化物イオンの拡散を抑制しながら水電解が進行することで,塩素ガスを発生することなく,鉄鋼材料の電気防食を可能にします。

Thin Film Coating of Mg-Intercalated Layered MnO2 to Suppress Chlorine Evolution at an IrO2 Anode in Cathodic Protection
Hikaru Abe, Tamie Kobayakawa, Heishi Maruyama, Toru Wakabayashi, Masaharu Nakayama*, Electrocatalysis, 10, 195-202 (2019).

発行日:2019.2.4

2019年1月25日

僅か1%の高分子濃度でゲル化するイオン液体型ゲル電解質

 有機電解液を高分子ネットワークで擬固体化した「高分子ゲル電解質」は、リチウム電池等の蓄電デバイスやイオン伝導材など、実用を想定した機能性ソフトマテリアルとして古くから研究が進められています。しかしながら、自立ゲルを作成するためには高い高分子濃度が必要であるため、イオン輸送を担う「電解液」の含有量が制限され、デバイス性能が著しく低下するという本質的な問題を抱えています。

 藤井研究室の石川明日美さん(応用化学科4年)は、ゲル電解質が抱える恒常的課題を根本的に解決することを目的として、(1)イオン液体電解液を反応場とする4分岐高分子の架橋反応を溶液化学の枠組みで速度論的に制御し、結果として、(2)僅か1wt%の高分子濃度(99wt%が電解液)でも4倍延伸に耐えうる均一な高分子ネットワークを合成することに成功しました。(3)得られたゲル電解質は、液体電解質に匹敵するイオン伝導度を示し(下図)、機械的強度とイオン伝導性を両立した電解質材料であることが実証されました。

“An Ionic liquid gel with ultralow concentrations of tetra-arm polymers: Gelation kinetics and mechanical and ion-conducting properties”
A. Ishikawa, T. Sakai, and K. Fujii*
Polymer, 166, 38-43 (2019).

発行日:2019.1.21

2018年12月14日

バイオマスの変換をイオン液体を使って高効率に実現

 バイオマスは環境に負荷をかけることなく毎年膨大な量を得られることから、持続可能な発展のための材料として大きな注目を集めています。植物バイオマスから大量に得られるフルフラールはその代表的な材料のひとつですが、これを積極的に化学原料に変換することは重要な課題であると認識されています。応用化学科の上村・川本研究室と英国UCL(ユニバシティーカレッジロンドン)化学科のHailes教授とSheppard博士の研究グループはこの変換反応をイオン液体で行うと効果的に進行できることを見いだし、化学原料であるフタル酸無水物誘導体の効率的な新しい合成反応の開発に成功しました。この反応では種々のフタル酸無水物が収率よく得られ、単離も容易であり、イオン液体も回収できて、効率を落とすことなくこの反応に再利用することができます。この研究は、UCL化学科で博士の学位を取得したKaraluka博士が、日本学術振興会(JSPS)の博士研究員として来日して大きく進めてくれました。明治維新150周年の今年、山口から英国に渡った長州ファイブが学んだUCLとの国際共同研究を、UCLから山口に来てくれた博士研究員によって成果を達成できたことに、深い感慨を覚えます。欧州からの研究員が加わってくれたことで、リアルに国際化した環境で研究を進めることができました。この研究は科学研究費補助金の助成を受けて実施し、英国化学会のRSC Advances誌に発表されました。

Development of a microwave-assisted sustainable conversion of furfural hydrazones to functionalised phthalimides in ionic liquids
Valerija Karaluka, Kengo Murata, Shinto Masuda, Yuto Shiramatsu, Takuji Kawamoto, Helen C. Hailes,* Tom D. Sheppard* and Akio Kamimura*
RSC Adv. 2018, 8, 22617–22624: DOI: 10.1039/c8ra03895c
(オープンアクセスですのでどなたでも見ることが可能です)

発行日:2018.10.25

2018年11月19日

溶解性を簡単な化学操作でコントロールできるイオン液体

 イオン液体は、有機の陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)から形成される塩ですが、常温で液体になるものをいいます。これは難燃性や不揮発性、および高い極性など従来の溶媒である有機溶媒にも水にも見られなかったユニークな特性をもっている液体です。これまでに電気化学だけでなく多くの化学の分野から興味を持たれてきました。イオン液体は、その種類によって水に溶けやすいもの(水溶性)と水に溶けにくく油に溶けやすいもの(親油性)のものに分けられますが、同一のイオン液体を簡単な化学操作で溶解性を変化させるようなイオン液体はありませんでした。応用化学科の有機合成化学研究室(上村・川本研究室)の創成科学研究科修士課程の白松勇人君は市販の安価なマンニトールから数段階を経て新しいイオン液体[PGA][TFSA]を合成しました。このイオン液体は親油性を示し水にはほとんど溶けませんが、薄い酸で処理するとカチオン部分にインストールされたアセタール保護基が除去されて[GA][TFSA]となり、今度は親水性を示してエーテルなどの有機溶媒(油)には溶けず水に溶けやすくなります。こうしてできたイオン液体は,合成に使った後に液−液抽出洗浄操作で容易にイオン液体を分離可能にする新しい分離技術を開くことができ、イオン液体ならではの反応、例えば放射性同位元素の錯体形成による分離技術など、への応用が今後期待されます。この研究は科学研究費補助金挑戦的研究の助成を受け実施し、成果はイオン液体研究で世界をリードする日本の研究雑誌であるChemistry Lettersに発表されました。

Solubility-switchable ionic liquids: A control of hydrophilicity and hydrophobicity using a protective group
Akio Kamimura,* Yuto Shiramatsu, Kengo Murata, and Takuji Kawamoto
Chem. Lett. 2018, 47, 1079 - 1081: doi.org/10.1246/cl.180382
(オープンアクセスですのでどなたでも見ることが可能です)

発行日:2018.10.25

2018年10月29日

全く新しい大環状化合物デルタアレーン−超分子化学に新風となるか

 分子量が1000を超すような大環状化合物は、その分子の中に別の小さな分子を取り込んで、あたかも酵素のように活性な錯体を形成する可能性があります。そのため人工的な酵素反応などの研究としては欠かせない分子であり、これまでクラウンエーテル、シクロデキストリン、カリックスアレーン、ピラーアレーンなどの大環状分子が開発されてきました。応用化学科の上村・川本研究室では入手容易なベンゼンジチオールとヒドロキノンから三段階で新しい大環状化合物デルタアレーンの合成開発に成功しました。この化合物は一辺が約1nmの正三角形型の空孔を持っており、いくつかの小さな分子の包摂(空孔の中に入り込んで取り込まれること)が起こることを確認しています。正三角形の空孔を持つ大環状分子は珍しい上、C3対称性(3回対称)を活かした新しい超分子構築に新しい「分子デバイス」として大きな可能性を秘めた分子として今後の発展が期待されます。この研究は科学研究費補助金基盤研究Bの助成を受け実施し、Tetrahedron誌のSir Derek H. R. Barton(英国のノーベル化学賞研究者)の生誕100年記念特集号(Barton Centennial Symposium in Print)に掲載されました。

Deltaarenes; novel macrocyclic molecules that are readily available from 1,4-benzoquinone and benzene dithiols
Akio Kamimura,* Ryusuke Watanabe, Tomoki Fukumitsu, Kazuki Ikeda, Takuji Kawamoto, Michinori Sumimoto, Shigeki Mori, and Hidemitsu Uno
Tetrahedron 2018, 74, 5303 - 5308: DOI: 10.1016/j.tet.2018.04.070
Barton Centennial Symposium in Print

発行日:2018.10.25

2018年10月16日

イオン液体中の高分子ネットワーク形成過程を時間分解中性子小角散乱により観測

 第3世代の液体として注目を集める「イオン液体」を溶媒として用いた高分子ゲル電解質は、蓄電デバイスやガス分離膜材料など、実用分野における新規材料として世界的に研究が進んでいます。当学科の藤井研究室では、イオン液体と高分子の分子間相互作用(高分子溶媒和)やそれが支配する高分子ネットワークの均一性や材料特性について、分子論に立脚した研究を展開しています。今回の発表論文において、藤井准教授と東京大学・柴山教授の共同研究グループは「イオン液体中で高分子はどのような時間スケールで架橋し、ゲルになるのか?」といった根本的な課題に着目し、中性子小角散乱の時間分解実験を高分子/イオン液体系に適用した研究を報告しました。理想的な均一網目を形成する4分岐ポリエチレングリコール(TetraPEG)をモデル高分子として選択し、そのゲル化過程における小角散乱スペクトルを(1)ゲル化時間、(2)高分子濃度の観点で解析することで、高分子ネットワークの形成メカニズムを分子レベルで明らかにすることに成功しました。この成果は、高分子ゲルの材料特性(ゲルの柔軟性や機械的強度)やゲル化に必要な高分子量を設計する上で基盤的な役割を果たし、今後の展開が期待できます。

“Ion Gel Network Formation in an Ionic Liquid Studied by Time-Resolved Small-Angle Neutron Scattering”
K. Hashimoto, K. Fujii*, K. Nishi, and M. Shibayama
J. Phys. Chem. B, 122, 9419-9424 (2018).

発行日:2018.9.17

2018年10月29日

コバルト含有ペロブスカイト酸化物の酸素 2p軌道中心位置が二酸化炭素との反応のしやすさを決定する

 温室効果ガスの一つである二酸化炭素の大気中濃度は増加の一途をたどっており、その削減にむけて産官学をあげて様々な取り組みがなされています。二酸化炭素を別の有用な物質に変換する化学プロセスには様々なものがありますが、その触媒として近年ペロブスカイト酸化物が注目されています。このペロブスカイト酸化物と二酸化炭素の間の反応性が制御できれば、これらの化学プロセスの効率向上に大きく寄与するものと期待されます。
大学院創成科学研究科・化学系専攻の片山祐助教は、マサチューセッツ工科大学機械工学科 Yang Shao-Horn教授のグループとの国際共同研究により、コバルトを構成元素に含む4種類のペロブスカイト酸化物について、そのバルクの電子状態が二酸化炭素の反応性を予測する良いパラメータとなることを明らかとしました。
本研究では、Ambient-Pressure XPS測定、拡散反射法を用いたFTIR測定という2つの異なる測定手法を用いることで、バルクの電子状態がどのように表面で進行する反応へと寄与しているのかを解明しました。本研究は、魅力的な化学プロセスである二酸化炭素変換反応に用いられるペロブスカイト酸化物触媒の新たな設計指針を与えるものであると言えます。

CO2 Reactivity on Cobalt-Based Perovskites
Jonathan Hwang, Reshma R. Rao, Yu Katayama, Dongkyu Lee, Xiao Renshaw Wang, Ethan Crumlin, Thirumalai Venkatesan, Ho Nyung Lee, Yang Shao-Horn
J. Phys. Chem. C, 122, 20391-20401 (2018).

発行日:2018.9.6

2018年9月21日

温室効果ガスを付加価値のあるギ酸へと選択的に変換する

 温室効果ガスの一つである二酸化炭素の大気中濃度は増加の一途をたどっており、その削減にむけて産官学をあげて様々な取り組みがなされています。その中でも二酸化炭素還元反応は、電気化学的に二酸化炭素を炭化水素やアルコールなどの付加価値を持つ化合物に変換できるため、近年注目を集めています。しかしながら、触媒の反応選択性に課題があるため、いまだ実用化には至っていません。
大学院創成科学研究科・化学系専攻の片山祐助教は、マサチューセッツ工科大学機械工学科 Yang Shao-Horn教授のグループとの国際共同研究により、硫化銅由来の銅電極を触媒として用いることで二酸化炭素を選択的にギ酸へと変換可能であることを明らかにしました。さらに、表面増強赤外分光法によって触媒表面での(電気)化学反応プロセスを分子レベルで観察することで、開発した銅触媒表面にてこのような優れた特性が発現する機構を解明しました。その結果、開発した銅触媒表面では従来提唱されてきた反応機構とは異なる方法で、二酸化炭素が直接水素化され、ギ酸へと変換されていることが分かりました。
本研究は、魅力的なプロセスである二酸化炭素還元反応の実用化を加速させるだけでなく、これまでにも数多くの検討がなされてきた銅をベースとする二酸化炭素還元触媒に新たな設計指針を与えるものであると言えます。
この研究成果は「Journal of Physical Chemistry Letters」(IF=8.7)に掲載が決定しました。

Sulfide-Derived Copper for Electrochemical Conversion of CO2 to Formic Acid Katherine R. Phillips, Yu Katayama, Jonathan Hwang, and Yang Shao-Horn
J. Phys. Chem. Lett, 9, 4407-4412 (2018).

発行日:2018.8.2

2018年8月20日

かさ高い脂肪鎖を鈴木-宮浦型カップリング反応に適用することに成功ーハイブリッド触媒系の新提案ー

 炭素原子周りに4つ目の置換基を導入することは、非常に難しい技術です。今回応用化学科の西形孝司准教授と東京大学生産技術研究所砂田祐輔准教授らは、一つの反応系で有機金属種とラジカル種という二つの活性種を使用可能な“ハイブリッド触媒系”を開発することで、炭素周りの4つ目の置換基としてアルケニル基(炭素-炭素2重結合)を導入することに成功しました。本研究は、ノーベル化学賞の受賞対象となった鈴木-宮浦カップリングを発展させた技術であり、これにより医農薬品の合成中間体として有用な炭素-炭素2重結合を持つ第4級炭素中心を効率的に合成できるようになります。この研究成果は、異なる活性種を安定的に一つの反応系で使用可能にした初めての例であり、この研究分野に大きなブレークスルーを与えただけでなく、将来の高機能な有用物質合成の実用化につながることが期待されます。
この研究成果は『ACS Catalysis』(IF=11.384)に掲載され、その研究内容が表紙に採用されました(DOI: 10.1021 /acscatal.8b01572)。
(科学新聞、化学工業日報, ケムステ, Monthly most read article top 20)

Radical-Organometallic Hybrid Reaction System Enabling Couplings between Tertiary-Alkyl Groups and 1‑Alkenyl Groups,
K. Nakamura, R. Hara, Y. Sunada, T. Nishikata*,
ACS Catalysis, 2018, 8, 6791−6795.

発行日:2018.6.25

2018年7月20日

水を添加するだけで多様なナノスケール構造体を形成するイオン液体

 有機溶媒(油)中の界面活性剤は、微小量の水の存在下で自発的に凝集し、「逆ミセル(マイクロエマルション)」と呼ばれるナノスケール分子集合体を形成し、その応用範囲は多岐にわたります(ナノ粒子合成、分離・抽出、生物化学的利用など)。最近、この逆ミセルがイオン液体中で形成することが報告され、ナノ反応場のさらなる応用展開が期待されていますが、(1) イオン液体・界面活性剤・有機溶媒・水と4つもの成分を混合した複雑系であること、(2) これが原因で、混合組成の最適化、すなわち、反応場としての機能制御が困難であるという問題点を抱えています。
当学科の藤井准教授と東京大学・柴山教授の共同研究グループは、アニオン性界面活性剤を陰イオンとするイオン液体を合成し、(1) ここに水を微少量添加するだけで安定な逆ミセルを形成すること、(2) 水の添加量に応じてラメラ、ベシクルと構造変化を起こし、多様なナノスケール構造体を形成することを大型放射光施設・SPring-8での小角X線散乱実験により明らかにしました。この成果は、水とイオン液体(2成分系)のみでナノ反応場の構築が可能であり、その反応場特性を水の添加量だけで簡単に制御できることを示唆しています。

“Small-angle X-ray scattering study on nano-scale structures controlled by water content in a binary water/ionic liquid system”
K. Hashimoto, K. Fujii*, T. Kusano, K. Hirosawa, and M. Shibayama
Phys. Chem. Chem. Phys., 20, 18355-18360 (2018).

発行日:2018.6.21

2018年7月18日

鉄さびの成分であるゲータイト(α-FeOOH,オキシ水酸化鉄)は少量のコバルトをドープすることで水を酸化するための電極触媒になる

 水の電気分解は誰でも知っているプロセスですが,最近,クリーンな水素製造法として再び注目されています。特に,水素発生の対極,つまり,陽極での酸素発生反応を貴金属の代わりに安価な電極触媒を使ってより小さなエネルギーで進行させることが工業的な課題になっています。
大学院創成科学研究科・化学系専攻/工学部・応用化学科の猪原大二郎君(博士前期課程2年),丸山平嗣君(博士前期課程1年),中山雅晴教授らは,戸田工業株式会社(広島県大竹市)といっしょに,酸素発生反応にきわめて効果的な鉄酸化物触媒を開発しました。鉄さびと同じゲータイト構造をもつアルファ型鉄オキシ水酸化物は,そのままでは水酸化の触媒になりませんが,結晶骨格をコバルト置換することで既存の貴金属触媒(ルテニウム酸化物)よりも優れた活性を示します。

Cobalt-Doped Goethite-Type Iron Oxyhydroxide (α-FeOOH) for Highly Efficient Oxygen Evolution Catalysis
Daijiro Inohara, Heishi Maruyama, Yasuo Kakihara (R D Div., Todakogyo Corp.), Haruki Kurokawa (R D Div., Todakogyo Corp.) and Masaharu Nakayama*, ACS Omega, 3, 7840-7845 (2018).

発行日:2018.7.13

2018年7月13日

反応種を取り巻く環境を設計することで、電気化学反応活性が制御できる

 「電解質」は、リチウムイオン電池や燃料電池など、幅広いエネルギー関連技術に必須の構成要素であり、その役割としては電極間でのイオンの輸送が一般的に知られています。一方で、近年になって電解質中に存在する分子中に形成される、非共有結合性の「ゆるい」相互作用がイオンの伝導のみならず電極上での電気化学反応特性に影響を与えるとの報告がなされました。
大学院創成科学研究科・化学系専攻の片山祐助教は、香港中文大学 Yi-Chun Lu助教、マサチューセッツ工科大学機械工学科 Gang Cheng教授、Yang Shao-Horn教授との国際共同研究により、電解質中の非共有結合性相互作用が、単純なモデル酸化還元反応に及ぼす影響と、そのメカニズムを解明しました。本研究では、分光学、電気化学、計算化学を組み合わせることによって、反応種の周りの水分子構造(水和シェルの構造)が、系中の不活性イオン(反応に直接関与しないイオン)と水分子との間の非共有結合性相互作用によって変化することを明らかとしました。さらに、水和シェルの構造がより無秩序的になるにつれて、電気化学反応の反応エントロピーが変化し、電気化学反応が促進されることを見出しました。この結果は、反応種を取り巻く環境が電気化学反応活性に影響を与えることを示すとともに、その制御には、これまで重視されてこなかった電解質中に存在する反応に直接関与しないイオンの選択が鍵であることを示唆しています。

Non-covalent interactions in electrochemical reactions and implications in clean energy applications
Botao Huang, Sokseiha Muy, Shuting Feng, Yu Katayama, Yi-Chun Lu, Gang Cheng, and Yang Shao-Horn
Phys. Chem. Chem. Phys., 20, 15680-15686, (2018).

発行日:2018.6.21

2018年7月20日

Pt電極触媒表面を「光」を使って分子のスケールで観察する

 Pt触媒は様々な反応に対して高い活性を持つことから、幅広いエネルギー関連デバイスの触媒として利用されています。その中でも、大気中に含まれている二酸化炭素とPtとの反応は、①燃料電池セルにおける触媒活性低下の要因となったり、②二酸化炭素を還元させてアルコールなどの燃料を製造する反応にも利用されるなど、注目されています。
大学院創成科学研究科・化学系専攻の片山祐助教は、京都大学物質エネルギー化学専攻 江口浩一教授、マサチューセッツ工科大学機械工学科 Yang Shao-Horn教授のグループとの国際共同研究により、表面増強赤外分光法を用いることによって、Pt触媒表面と二酸化炭素との間の表面(電気)化学反応プロセスを分子レベルで解明することに成功しました。表面を直接「赤外光」によって観察することで、従来の電気化学的手法で捉えることができなかった触媒反応過程の解明に加え、Ptと相互作用している際の二酸化炭素関連種の立体構造も明らかにしました。この結果は、Pt上での触媒反応機構の理解を助けるものであるとともに、Ptをベースとする燃料電池触媒のさらなる特性向上のための触媒設計指針としての応用が期待されます。

Surface (Electro)chemistry of CO2 on Pt Surface: An in Situ Surface-Enhanced Infrared Absorption Spectroscopy Study
Yu Katayama, Livia Giordano, Reshma R. Rao, Jonathan Hwang, Hiroki Muroyama, Toshiaki Matsui, Koichi Eguchi, and Yang Shao-Horn
J. Phys. Chem. C, 122, 12341-12349 (2018).

発行日:2018.6.14

2018年4月19日

ナノ空間に孤立したCo2+イオンはin situで酸化され,結合しているCoよりもはるかに効率良く水を分解する

 水素は未来の世界を動かす理想的なエネルギーキャリアです。再生可能エネルギー(太陽光,風力発電など)を電源にした水の電気分解は炭素を排出しないクリーンな水素製造プロセスですが,陽極での酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction, OER)がボトルネックとなり,水素生産のエネルギーロスの原因になっています。
大学院創成科学研究科・化学系専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,藤本航太朗君(現東ソー(株)),岡田拓弥君(博士前期課程1年)らは,遷移金属コバルトに着目し,i)層間化合物のナノ空間に孤立したCo,ii)酸素ネットワーク中のCo,さらにiii)二酸化マンガンの骨格にドープされたCoの水酸化に対する電極触媒としての活性を調べました。独自の方法で作製した層状二酸化マンガン(ブーゼライト)のナノ空間に孤立したCo2+イオンはin situ(その場)でCo3+に酸化され,結合しているCoよりもはるかに大きな酸素発生電流をもたらしました。これは孤立することでCoの有効利用率と電子移動速度がともに大きくなったためであることが明らかになりました。

Enhanced Oxygen Evolution Reaction Activity of Co Ions Isolated in the Interlayer Space of Buserite MnO2
Kotaro Fujimoto, Takuya Okada, and Masaharu Nakayama*, J. Phys. Chem. C, 122, 8406-8413 (2018).

発行日:2018.3.30

2018年3月23日

フッ素化リン酸エステル溶媒を用いた”燃えない電解液”で電池電極反応を引き起こすための方法論を提案

 フッ素化リン酸エステルの1つであるTFEP溶媒は、有機溶媒でありながら揮発性(蒸気圧)が低く、自己消火性を有する等、環境面・安全面に適合した新規不燃性溶媒です。このような不燃性溶媒をLiイオン電池用電解液の溶媒として使用することができれば、 Liイオン電池の大型化において最大の懸念事項である発火・爆発問題を解消する”安全な大型電池”を構築することが可能となります。
藤井研究室の十川みちるさん(修士1年)は、このTFEPを溶媒とするLiイオン電池用電解液の物性・構造相関に着目した溶液化学的研究を進めており、今回の論文では、一般的な負極材料(グラファイト電極)に対する電極反応を効率よく進行させることを目的とした機能最適化に関する成果を報告しました。構造化学・電気化学・計算化学に立脚した多角的な研究を展開し、Li電池電極反応を引き起こすために導入する添加剤の濃度がLiイオンの溶存構造にどのような変化をもたらし、結果として、電極反応特性にどのように影響するのかを定量的に明らかにしました。この成果は、実用性と安全性を兼ね備えた新規電解液を設計する上でのモデル系として位置付けることができ、今後の応用展開の基盤指針となることが期待されます。

“Solvation-controlled lithium-ion complexes in a nonflammable solvent containing ethylene carbonate: structural and electrochemical aspects”
M. Sogawa, H. Kawanoue, Y. M. Todorov, D. Hirayama, H. Mimura, N. Yoshimoto, M. Morita, and K. Fujii*
Phys. Chem. Chem. Phys., 121, 6480-6486 (2018).

発行日:2018.2.9

2017年11月23日

高い力学特性・高い膨潤度を有する均一網目イオンゲル

 低い蒸気圧(不燃性)・高いイオン伝導性を示す”イオン液体”と”高分子”を複合化した擬固体材料 ”イオンゲル” は、高い安全性・信頼性を担保した電気化学デバイス用電解質として世界的に研究が進められています。しかし、ゲルの高分子網目は本質的に不均一であるため、(1) 実用レベルの高い機械的強度を得るには多くの高分子量が必要、(2) その結果として、電解液成分の含有量が減少し、電気化学的特性が大幅に低下することが普遍的な問題点として挙げられています。
藤井研究室の吉武真理さん(修士1年)と藤井准教授は、マイケル付加反応を利用した四分岐高分子の架橋メカニズムを反応速度論的に調べ、チオール(SH)末端の酸解離反応がゲル化時間や架橋率を支配すること、これを最適化することで95%以上の架橋率を有する均一網目ハイドロゲルを作成できることを見出しました。また、このハイドロゲルを乾燥し、イオン液体電解液で膨潤させたイオンゲルの膨潤挙動と力学特性を評価したところ、電気化学デバイス用途で求められるゲル特性(高い膨潤度、高い機械的強度、高いイオン伝導性)を満足する高性能ゲル電解質として応用可能なことが分かりました。

“Defect-free network formation and swelling behavior in ionic liquid-based electrolytes of tetra-arm polymers synthesized using a Michael addition reaction”
M. Yoshitake, Y. Kamiyama, K. Nishi, N. Yoshimoto, M. Morita, T. Sakai, and K. Fujii*.
Phys. Chem. Chem. Phys., 19, 29984-29990 (2017).

発行日:2017.10.13

2017年10月20日

高濃度のリチウムイオンを含む液体材料の”特殊なイオン秩序構造”

 リチウムイオンの濃度を限界まで高めた溶液(濃厚電解液)は次世代のリチウムイオン電池用電解液として注目されており、実用化を視野に入れた応用・性能評価が世界的に進められています。この濃厚電解液は、これまで使用されてきた希薄電解液にはない機能(燃えない、電気化学的安定性が高い、短時間充電が可能など)を有し、その機能の発現は濃厚電解液の特殊な溶液構造に由来するものであることが理論的に予測されています。藤井准教授の研究グループは、濃厚電解液の溶液構造を実験的に直接決定することを目的として、放射光研究施設・SPring-8での高エネルギーX線全散乱実験を実施し、(1) ある濃度を境としてリチウムイオンの構造が劇的に変化すること、(2) 2 Mから3 Mの超濃厚領域ではリチウムイオンと対アニオンが長距離に渡って連結した「長距離イオン秩序構造」を形成することを解明しました。さらに、この実験成果と理論データ(分子動力学シミュレーション)を連動することで、イオン秩序構造を分子レベルで可視化することに成功しました(下図)。この結果は濃厚電解液の機能発現メカニズムと密接に関係しており、電解液の分子レベル設計、機能最適化のための基盤指針となることが期待されます。

“Long-Range Ion-Ordering in Salt-Concentrated Lithium-Ion Battery Electrolytes: A Combined High-Energy X-ray Total Scattering and Molecular Dynamics Simulation Study”
K. Fujii*, M. Matsugami, K. Ueno, K. Ohara, M. Sogawa, T. Utsunomiya, M. Morita.
J. Phys. Chem. C, 121, 22720-22726 (2017).

発行日:2017.9.25

2017年10月2日

二酸化マンガンシート間のコバルトイオンが水の電気分解を劇的に促進する

 持続可能な社会の実現に向け,水素の利活用が急速に進んでいますが,世界の水素生産の90%以上は未だ化石燃料の改質によるものです。再生可能エネルギー(太陽光,風力発電など)を電源にした水の電気分解はCO2排出を伴わない理想的な水素製造プロセスですが,陽極での酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction, OER)の過電圧が大きく,全体の効率を低下させる原因になってます。
大学院創成科学研究科・化学系専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,藤本航太朗君,小早川民江さん(以上博士前期課程),岡田拓弥君(学部4年)らは,良導電性・高比表面積の炭素繊維上に層構造をもつ二酸化マンガンを薄膜として均一に析出させることに成功しました。さらに,この層状二酸化マンガンの層間スペースにコバルト(II)イオンを挿入すると(この物質はコバルト-ブーゼライトという海底に分布する鉱物と同じ結晶構造です),OER反応による電流がはるかに大きくなる,すなわち,水の電気分解が劇的に促進されることを見いだしました。このCo-ブーゼライト触媒の活性は,少なくとも100時間,100回の繰返し使用の間持続されることが分かっています。

A binder-free thin film anode composed of Co2+-intercalated buserite grown on carbon cloth for oxygen evolution reaction
Masaharu Nakayama*, Kotaro Fujimoto, Tamie Kobayakawa, Takuya Okada, Electrochem. Commun., 84, 24-27 (2017).

発行日:2017.9.12

2017年9月13日

二酸化マンガンシート間のコバルトイオンが水の電気分解を劇的に促進する
 

室温でセルロースを溶解できるイオン液体:溶解メカニズムを分子レベルで特定

 セルロースは地球上で最も多く存在する天然高分子であり、分解・発酵を経ることによりエタノール等のエネルギーを取り出すことができることからバイオマスエネルギー源として期待されています。しかしながら、セルロースは分子内に強固な水素結合ネットワークを形成するため一般的な溶媒への溶解性に乏しく、バイオマス変換プロセスにおける「溶解プロセス」がネックとなっていました。
近年、ある種のイオン液体が室温下で迅速にセルロースを溶解することが報告され、新しいセルロース溶剤として注目を浴びています。当学科の藤井健太准教授と東京大学(柴山研究室)の研究グループは、室温付近でセルロースを溶解できる亜リン酸型イオン液体に着目し、このイオン液体中におけるセルロース鎖の溶存状態を分子レベルで明らかにしました。放射光X線散乱実験、動的光散乱実験、計算機シミュレーションを駆使して、①高分子鎖-イオン液体間のミクロな相互作用(高分子溶媒和構造)、②セルロース鎖全体の溶存形態・凝集構造を決定し、これらを総合してイオン液体中へのセルロールの溶解メカニズムを提案しました。この成果は、省エネルギーでバイオマスを処理できる液体材料の機能化・最適化研究における基盤的知見であり、今後の展開が期待されます。

“Solvated Structure of Cellulose in a Phosphonate-Based Ionic Liquid”
K. Hirosawa, K. Fujii*, K. Hashimoto, M. Shibayama
Macromolecules, 50, 6509-6517 (2017).

発行日:2017.8.18

2017年9月8日

リチウムイオン二次電池用の新規電解液: フッ素化リン酸エステル溶媒を用いた有機電解液中のイオン溶存状態を分子レベルで解明

 現在商用化されているリチウムイオン電池用電解液には「有機溶媒」が用いられています。揮発性が高く燃えやすい有機溶媒の使用は電池使用時に発火・爆発を引き起こす主要因の一つであり、リチウム電池の大型化を実現するためには安全性・信頼性を視野に入れた材料開発が必須になります。
藤井研究室の十川みちるさん(修士1年)と藤井准教授は、有機溶媒系電解液の特性を活かしながら、新たな機能として「不燃性・熱安定性」を効率よく付加することを目的として、フッ素化リン酸エステルを主溶媒とする有機電解液の研究を進めており、今回の論文では、不燃性溶媒としてTFEP(左図)を選択し、(1)TFEP溶媒の物理化学的特性、(2)リチウムイオンの電極反応特性と密接に関係するイオン溶媒和構造(右図)を分子レベルで解明することに成功しました。この成果は、TFEP溶媒を利用する機能性電解液の設計・最適化のための基盤指針となることが期待されます。

“Role of Solvent Bulkiness on Lithium-Ion Solvation in Fluorinated Alkyl Phosphate-Based Electrolytes: Structural Study for Designing Nonflammable Lithium-Ion Batteries”
M. Sogawa, Y. M. Todorov, D. Hirayama, H. Mimura, N. Yoshimoto, M. Morita, and K. Fujii*
J. Phys. Chem. C, 121, 19112-19119 (2017)

発行日:2017.8.10

2017年8月19日

銅触媒アミノ化の新手法開発―非常に大きな非天然型アミノ酸類の効率的合成法確立に一歩前進―

 創成科学研究科応用化学分野の西形孝司准教授らのグループは、立体的に非常にかさ高い炭素官能基を銅触媒存在下アンモニアやアミンと反応させることで、効率的に非天然型アミノ酸誘導体を合成できることを発見しました。
非天然型アミノ酸は、天然には無い機能を有するためその合成法開発は喫緊の課題です。とくに、非常に大きな構造を持つアミノ酸は、画像診断薬や特定の細胞と強く相互作用することが知られており重要な化合物です。しかしながら、アミノ酸の合成法は限られており、また、構造が大きくなると合成が極端に難しいのが現状でした。
今回開発されたアミノ化反応手法は、ラジカル活性種と銅アミド活性種という2種類の活性種を用いることで、難題とされていた立体的な問題を解決することができました。非天然アミノ酸合成分野に新たな方法論として、今後の応用が期待されます。
この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』(IF=11.994)に掲載が決定しました(doi:10.1002/anie.201706293)。

Copper-catalyzed Amination of Congested and Functionalized α-Bromocarboxamides with Amines or Ammonia at Room Temperature
Syo Ishida, Kentaro Takeuchi, Nobuhiro Taniyama, Yusuke Sunada, Takashi Nishikata*
Angewandte Chemie, International Edition, 2017, Early View. doi:10.1002/anie.201706293

発行日:2017.8.10

2017年8月2日

ニトリル基側鎖を持つポリオキセタン電解質のリチウムイオン輸送における、主鎖上のエチル基がもたらす立体効果

 実用的な不燃性電解質の開発は、リチウムイオン電池 (LIB) による火災のリスクを無くすための、喫緊の課題です。不燃性電解質の中でもポリマー電解質 (PEs) は、機械的強度を有しながら、高い電極との界面親和性が期待できます。しかし、PEsの実現には、リチウムイオンの輸送能力、いわゆるイオン伝導度の低さがボトルネックとなっています。
応用化学科の堤宏守教授らのグループは、以前の報告に引き続き、側鎖にニトリル基を有したポリオキセタン電解質の構造の最適化のための研究を続けています。他の多くの研究では、イオンの輸送に支配的である極性基の寄与ばかりが注目を集めてきました。今回の報告では、一見すればイオンの輸送に関与のなさそうな非極性基のエチル基が、実はイオンの輸送を有利にするいくつかの効果を与えることを明らかにしました。これは、エーテル基がイオンへと溶媒和することで生じる「イオン性の擬似架橋」を、エチル基が効果的に抑制するためです。また、実際にPEsを使用したLIBの動作テストを行った結果、電池として安定に動作することがわかりました。
これまでの学術的な研究を通して得られた結果は、今後、より高いイオン伝導性を示すPEを設計する上で重要な知見となります。

Steric effect on Li+ coordination and transport properties in polyoxetane-based polymer electrolytes bearing nitrile groups
Ryansu Sai, Kazuhide Ueno,* Kenta Fujii, Yohei Nakano and Hiromori Tsutsumi*
RSC Advances., 7, 37975–37982 (2017).

発行日:2017.8.2

2017年6月29日

イオン液体中の高分子溶媒和: 放射光実験と計算シミュレーションの融合

 温度やpH、光、電場などの外部刺激に応答して溶解性や物性・構造が可逆的に変化する「刺激応答性高分子」は、バイオマテリアル(人工筋肉・ドラッグデリバリーシステム)やアクチュエータなど”インテリジェント材料”として広く研究開発が薦められています。創成科学研究科の藤井健太 准教授と物質・材料研究機構等からなる研究グループは、液体材料としてイオン液体を、高分子材料として温度応答性高分子を選択し、低温で相互溶解・高温で相分離するイオン液体・高分子複合材料の開発を進めており、今回の研究では、(1) 放射光X線(SPring-8施設)と分子動力学シミュレーションを融合した独自の手法を駆使して、高分子/イオン液体溶液の構造研究を行い、(2) この系の相分離現象の鍵となる「高分子側鎖周りの溶媒和構造(ミクロ構造)」と「高分子鎖の溶存状態(ナノスケール構造)」を同時かつ独立的に決定することに成功しました。

“Microscopic Structure of Solvated Poly(benzyl methacrylate) in an Imidazolium-Based Ionic Liquid: High-Energy X-ray Total Scattering and All-Atom MD Simulation Study”
K. Fujii*, T. Ueki, K. Hashimoto, Y. Kobayashi, Y. Kitazawa, K. Hirosawa, M. Matsugami, K. Ohara, M. Watanabe, M. Shibayama.
Macromolecules, 50, 4780-4786 (2017).

発行日:2017.6.15

2017年5月22日

骨格にコバルトをドープしたオルガノマンガン酸化物によるヨウ素センシング
Electrosynthesis of layered organo-manganese dioxide framework-doped with cobalt for iodide sensing

 酸化還元活性なマンガン酸化物(MnO2)シート間にカチオン性界面活性剤分子の集積層をサンドイッチした“オルガノマンガン酸化物”は,新しいタイプの無機/有機ナノレベル複合体であり,無機ホストと有機ゲストによるシナジー効果が期待されます。
大学院創成科学研究科・化学系専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,中川貴美子さん,鈴木かのんさん(博士前期課程1年),広島大学大学院工学研究科の早川慎二郎教授,近藤未彩さん(博士前期課程2年)らは,この複合材料を電極基板上に薄膜として作製する技術を提案しており,さらに今回,MnO2シート内にコバルトイオンをドープすることでより速い電子移動を可能にしました。下図のように水溶液中のヨウ化物イオンは層間有機相(CTA layer)に吸着されます。吸着されたヨウ化物イオンはMnO2層を介して電極に電子を渡すことで,吸着量に応じた酸化電流が発生します。その結果,有機相による感度の増大とコバルトドーピングによる応答時間の短縮が同時に達成されました。

Kimiko Nakagawa, Kanon Suzuki, Misa Kondo, Shinjiro Hayakawa, Masaharu Nakayama*, Langmuir, 33, 4647-4653 (2017).

発行日:2017.5.16

2017年6月12日

ホルムアミド中の「三次元水素結合ネットワーク」: 実験・シミュレーションの融合により実証

 水は我々の生活で最も身近な「液体」「溶媒」であり、溶液中の化学反応の常識は水を中心に構築されています。しかしながら、溶液化学的には、水は「最も異常な溶媒」であり、これは水が特殊構造・三次元水素結合ネットワークを形成することに起因しています。創成科学研究科の藤井健太准教授と修士1年・吉武真理さんは、「ホルムアミド」が水と類似したイオン反応挙動を示すことに着目し、その分子論的起源が、水以外の溶媒(有機溶媒)では報告例がない水素結合ネットワークの形成に由来することを分光実験・計算機シミュレーションの融合研究により実証しました。具体的には、①ホルムアミドは多次元的な水素結合相互作用に特有な低振動領域のRamanスペクトル(左図)を示し、②この実測値を、分子動力学シミュレーションにより得られる状態密度スペクトル(自己速度相関関数のフーリエ変換, 右図)で再現することに成功、③そのシミュレーション結果から静的な液体構造を評価したところ、歪んだ三次元水素結合ネットワークを形成していることを報告しました。また、ホルムアミド(FA)と類似のアミド溶媒およびこれらの混合溶媒系にも研究を拡張し、多次元的水素結合ネットワークの一般性について議論しました。

“Hydrogen bonding in protic and aprotic amide mixtures: low-frequency Raman spectroscopy, small-angle neutron scattering, and molecular dynamics simulations”
K. Fujii*, M. Yoshitake, H. Watanabe, T. Takamuku, Y. Umebayashi.
J. Mol. Liquids, 238, 518-522 (2017).

発行日:2017.5.10

2017年3月23日

イオン液体中での基礎反応(酸塩基反応)を分子レベルで解明
アミン分子の溶媒和状態: 青緑と赤の”雲”は、アミン周りのイオン液体(陰・陽イオン)の確率密度分布

 陽イオンと陰イオンのみから成る液体状態の塩:イオン液体は、水や有機溶媒などの従来溶媒とは全く異なる反応場特性を示し、化学合成や分離・濃縮媒体など幅広い分野で応用されています。しかしながら、このイオン液体を反応溶媒として使用する際、従来溶媒系とは何が異なり、目的とする反応に対して分子・原子レベルでどのような効果が表れるのか等、熱力学や分子構造に基づく統一的な考え方は未だ確立されていません。大学院創成科学研究科の藤井健太准教授と東京大学の研究グループは、イオン液体中での化学反応のモデル系として「酸塩基反応」に着目し、(1)典型的な溶質分子の酸解離定数(pKa)および反応自由エネルギーを実験的に直接決定、(2)中でも、塩基性分子の多くは、水溶液系での常識から大きく外れるpKa値(14以上)を示すことを報告してきました。本研究では、アミン分子が示す異常なpKa値(=16.6)の分子論的起源を解明することを目的として、大型放射光施設・SPring-8での高エネルギーX線散乱実験と分子動力学シミュレーションによる構造化学的研究を推進しました。プロトン付加前後のアミン分子の溶媒和構造を分子レベルで決定し、この違い(陰イオンによる溶媒和)が反応前後のエネルギー差を支配していることを明らかにしました。この成果は、イオン液体中での化学反応制御法を構築するための基盤的指針であり、今後の研究の展開・拡張が期待されます。

“Effect of protonation on the solvation structure of solute N-butylamine in an aprotic ionic liquid”
K. Hashimoto, K. Fujii*, K. Ohara, M. Shibayama.
Phys. Chem. Chem. Phys., 19, 8194 - 8200 (2017).

発行日:2017.3.23

2017年2月16日

エーテル系ポリマー電解質のデザインの方向性を提示!ー 極性側鎖のイオン輸送に対する効果を明らかに ー

 リチウムイオン電池 (LiB) は、世界で最も使用されている二次電池です。その活躍は、スマートフォンから電気自動車にと、益々の広がりを見せています。一方、その活躍に比例するように、LiBから出火した、という痛ましいニュースが聞こえます。その一因となっているのが、可燃性の液体電解質です。そのため、各地では不燃性の固体電解質の研究が盛んに行われています。
応用化学科の堤宏守教授らのグループは、以前より、エーテル系ポリマーの一種である「ポリオキセタン」に、極性を持つニトリル基を側鎖に導入することで、高いイオン伝導度を発揮することを報告してきました。しかし、その効果の詳細については不明なままでした。今回、大学院創成科学研究科修士1年の崔亮秀君が中心に行った研究では、よりシンプルな構造を有するポリマーと比較することで、以下に示すようなニトリル基の効果を明らかにしました。1) 塩濃度の増加に伴うガラス転移温度の低下、2) Li+へのニトリル基の配位、3) ニトリル基の高い誘電率に起因する、塩解離能の上昇。
今回の研究成果が、今後のポリエーテル系電解質のデザイン設計の指針になるものと期待されます。

Role of polar side chains in Li+ coordination and transport properties of polyoxetane-based polymer electrolytes Ryansu Sai, Kazuhide Ueno,* Kenta Fujii, Yohei Nakano, Naho Shigaki and Hiromori Tsutsumi*
Phys. Chem. Chem. Phys., 19, 5185 - 5194 (2017).

発行日:2017.2.7

2017年2月3日

アルキル基と水素原子のアルキンへの付加を銅触媒系で精密制御-シス及びトランス配置アルケンの自在な作り分けが実現!-

 アルキル置換アルケンは医農薬品を構成する重要な骨格です。アルキル置換アルケンには、アルキル基とそのβ位の水素原子が同じ側にあるトランス構造とそれとは逆のシス構造があり(上図左右の分子)、これまでに様々な合成方法が研究されてきました。しかし、これらアルケン周りの立体化学を制御するのは容易ではなく、特に、炭素-炭素三重結合を持つアルキンへアルキル基と水素原子を同時に付加させる“ヒドロアルキル化”は、一段階でアルキル置換アルケンを合成できるにも関わらず、従来法では立体選択的付加反応の実現が困難でした。
今回、応用化学科西形孝司准教授(テニュアトラック)らは、銅触媒存在下、異なる水素源を用いることでアルキル基のアルキンへの立体選択的な付加を実現することに成功しました。シス構造を持つアルケンはシラン(H[Si])を用いることで、一方、トランス構造を持つものはアルコール/ジボロン(ROH/B2pin2)を用いることで、それぞれの立体を持つアルキル置換アルケンが合成できることを見出しました。この成果は、『ACS Catalysis』(IF=9.3)に掲載され、月間アクセス数は同雑誌のTOP20以内にランクインしました。
アルケン分子を選択的に合成するための方法論として、今後の複雑分子精密合成化学への応用が期待されます。

Tandem Reactions Enable Trans- and Cis-Hydro-Tertiary-Alkylations Catalyzed by a Copper Salt
Kimiaki Nakamura, Takashi Nishikata*,
ACS Catalysis, 2017, 7, 1049–1052, DOI: 10.1021/acscatal.6b03343

発行日:2017.2.3

2017年1月18日

トリフルオロメチル基の新しい導入法を開発

 トリフルオロメチル基を有する化合物はフッ素原子がもつ特異的な性質により,医薬,農薬,高分子材料,および液晶材料等の様々な産業分野において重宝されています。ケトンのα位がトリフルオロメチル基に置換した化合物は様々な有用化合物へと変換可能であります。そのため,その効率的な合成法の開発は重要な研究課題の1つです。これまでにケトンを出発物質して用いる手法ではケトンの活性化およびトリフルオロメチル源の双方が必要でありました(式1−3)。
川本拓治助教,佐々木理緒(博士前期1年)および上村明男教授からなる研究グループはトリフルオロメタンスルホン酸無水物がケトンの活性化剤かつトリフルオロメチル源として機能する新規手法の開発に成功しました(式4)。
この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』誌(IF = 11.709)に掲載され,また『Synfacts』誌にてハイライトされました。

Synthesis of α-Trifluoromethylated Ketones from Vinyl Triflates in the Absence of External Trifluoromethyl Sources
Takuji Kawamoto*, Rio Sasaki, and Akio Kamimura*, Angewandte Chemie, International Edition, 2017, 56, 1342–1345. DOI: 10.1002/anie.201608591 Highlighted in Synfacts, 2017, 13, 72. DOI:10.1055/s-0036-1589791

発行日:2017.1.24

2016年11月9日

アミド基の酸素と窒素の反応性制御に成功 -ラクタムとイミノラクトンの自在な作り分けが実現!-

 アミド基は医農薬品を構成する複素環分子を合成するための重要な官能基です。実際に、アミドの反応性を利用した論文はこれまでに数多くの報告例があります。しかしながら、アミド官能基内に有する窒素と酸素の反応部位を、反応条件の違いにより自在に制御できた例はこれまでにありませんでした。この反応性を制御できると、同一の出発原料からラクタム及びイミノラクトンを合成することができるようになるため、長年、アミドの反応性制御法開発が求められていました。
今回、応用化学科西形孝司准教授(テニュアトラック)らは、α-ブロモアミド化合物を銅触媒存在下でアクリル酸誘導体と反応させると、強塩基下では窒素の反応性のみが発現し、対応するラクタムが生成することを発見しました。一方、弱塩基条件で反応を行うと、今度はアミドの酸素のみが反応し、対応するイミノラクトンへと変換されることがわかりました。この成果は、『ACS Catalysis』(IF=9.3)に掲載されました。
アミド官能基の反応性を化学的に精密制御するための方法論として今後の複素環化学への応用が期待されます。

Different behaviors of a Cu catalyst in amine solvents: Controlling N and O reactivities of amide Yu Yamane, Takashi Nishikata*, ACS Catalysis, 2016, 6, 7418−7425, DOI:10.1021/acscatal.6b02309

発行日:2016.11.8

2016年11月15日

イオン液体系で特異的な高分子溶液の圧力誘起相転移現象

 イオン液体は純粋な塩でありながら液体として存在する新しい液体材料であり、不揮発性や難燃性など高い安全性を担保したグリーン溶媒として注目されています。また、イオン液体は極めて高いイオン雰囲気を有するため溶質分子の溶存環境が特異的であり、その結果として、相挙動や化学反応の特性が従来溶媒系とは大きく異なってきます。
創成科学研究科の藤井健太 准教授と東京大学、NIMS、横浜国立大学からなる研究グループは、イオン液体中で特有な高分子の溶媒和現象に注目し、これが高分子溶液の(温度誘起型)相転移現象とどのような相関関係にあるのかについて分子論に立脚した研究を進めてきました。今回の論文では、熱力学において温度と同様に重要な「圧力」を実験パラメータとして、側鎖に芳香環を有する高分子(右図a)溶液の相転移挙動について光散乱法を中心として実験的に調べました。結果として、①圧力をかけると高分子の可溶化が劇的に進む(イオン液体中に溶けやすくなる)こと、②温度ー圧力相図が水溶液系とは全く異なることが分かり、その相挙動の違いをマクロ(Clapeyron式に基づく熱力学的考察)とミクロ(高分子溶媒和の分子論)の両面から明らかにすることに成功しました。

“Pressure Response of a Thermoresponsive Polymer in an Ionic Liquid ”
K. Hirosawa, K. Fujii*, T. Ueki, Y. Kitazawa, M. Watanabe, M. Shibayama, Macromolecules, 49, 8249-8253 (2016).

発行日:2016.10.21

2016年9月12日

水熱反応による窒素ドープカーボンクロスの合成とスーパーキャパシタへの応用
市販カーボンクロス(CC)の電流応答が表面処理や窒素ドーピングによって増大した(= キャパシタ性能の向上)

 次世代の携帯機器として体に装着する“ウエアラブル端末”が,最近国内外のメーカーから発売・発表されました。ウエアラブル機器の普及に小型電源が不可欠なのは言うまでもなく,様々なニーズに応えるため,柔軟性,伸縮性,軽量性,強度を備えた高性能スーパーキャパシタの開発が急速に進められています。
理工学研究科・物質化学専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,小峰恭平君(博士前期2年),猪原大二郎君(学部4年)らは,市販のカーボンクロス(U-CC)を化学酸化した後(O-CC),アンモニア/ヒドラジン存在下で水熱処理することにより,窒素をドープしたカーボンクロス(N160-CC)を作製することに成功しました。左の図は炭素1s,窒素1s領域のX線光電子スペクトルと各処理によって得られたカーボンクロスの原子組成です。水熱処理の温度や処理液の組成によって,窒素のタイプやドーピング量を調整することができ,その結果としてスーパーキャパシタ特性が大幅に向上することを見いだしました(左図,右列下)。

Nitrogen-doped Carbon Cloth for Supercapacitors Prepared via a Hydrothermal Process
Masaharu Nakayama*, Kyohei Komine, Daijiro Inohara, J. Electrochem. Soc., 163, A2428-A2434 (2016).

発行日:2016.9.8

2016年9月12日

層状マンガン酸化物を直接成長させたカーボンクロスを電極に用いるフレキシブルなスーパーキャパシタセルの開発

 マンガン酸化物キャパシタの研究開発は,マンガン酸化物のミクロ・ナノ構造化,導電性賦与を目的としたナノカーボン(カーボンナノチューブ,グラフェン)の利用などで進展してきましたが,ここ数年の間に“フレキシビリティ”という新たな価値が加わりました。これはスマートフォンの普及を土台にしたウエアラブル端末市場の成長と大いに関係しており,小型軽量と大容量を兼ね備えた新しいタイプの電源がますます望まれています。 理工学研究科・物質化学専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,金重光貴君(博士前期2年),小峰恭平君(博士前期2年)らは,化学処理したカーボンクロス(炭素繊維を編み込んだ市販の布)に独自の手法で層状マンガン酸化物を均一に塗布したもの(右図のSEM写真)を正極に,活性炭を塗布したカーボンクロスを負極に組み込んだ非対称スーパーキャパシタセルを試作しました。層状マンガン酸化物がレドックス活性を維持したまま高比表面積のカーボンクロス上に均一に析出しているため,電極の幾何面積当たりの比キャパシタンスを大きくできます。非対称セル()は2Vで安定に動作するため,マンガン酸化物の対称セル(●)や活性炭の対称セル()よりも大きなエネルギー密度,パワー密度を発現することが分かりました。

Direct Growth of Birnessite-Type MnO2 on Treated Carbon Cloth for a Flexible Asymmetric Supercapacitor with Excellent Cycling Stability
Masaharu Nakayama*, Shogo Osae, Koki Kaneshige, Kyohei Komine, Hikaru Abe, J. Electrochem. Soc., 163, A2340-A2348 (2016).

発行日:2016.8.26

2016年8月10日

安価なアルカリフッ化物を用いて選択的フッ素化の新手法を開発 ーアミドと銅の相互作用を利用ー

 フッ素はその特異な性質のため有用物質に不可欠な元素であり、例えば医農薬品の実に20~30%にフッ素が含まれています。そのため、分子の効率的フッ素化反応開発は有機合成における最重要課題の一つです。今回、応用化学科西形孝司准教授(テニュアトラック)らは、銅触媒存在下、複数の炭素-臭素結合を持つ基質に対してフッ素化を行ったところ、3級アルキル基の部分で選択的に反応が進行することを見出しました。反応中に生じるフッ化銅とアミドとの相互作用が選択的なフッ素化を実現していると予想されています。また、フッ素源として従来開発されてきた反応剤よりも安価なフッ化セシウムを用いることができる点も本反応の特徴です。
この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』(IF=11.709)に掲載され、ハイライト研究として内表紙を飾りました。
新規なフッ素導入法として様々な分野への応用が期待されます。

Site-selective tertiary-alkyl-fluorine bond formation from alpha-bromoamides using a copper-CsF catalyst system
Takashi Nishikata*, Syo Ishida, Ryo Fujimoto,
Angewandte Chemie, International Edition, 2016, 55, 10008-10012. doi:10.1002/anie.201603426R1

発行日:2016.8.10

2016年9月12日

新しい電解質溶液「超濃厚電解液」の電池特性を分子レベルで解明

 一般的なリチウムイオン電池に用いられる材料の1つ「電解液」の主成分は「リチウム塩」と「有機溶媒」であり、これらの組み合わせや混合比を最適化することで電池特性を制御することができます。しかしながら、実用電池に使用できる有機溶媒の種類はかなり限定されており、この自由度の低さが更なる性能・安全性の向上を目指す上での課題となっていました。最近、電解液の最適化において「濃度」が有効なパラメータとなることが提案され、リチウム塩の濃度を限界まで高めた「超濃厚電解液」では、様々な有機溶媒を媒体として使用でき、かつ、これまでにない新規な電池特性を示すことが報告されて来ました。物質化学専攻の若松英彰 君(修士2年)と藤井健太 准教授らのグループは、分光実験・計算化学を組み合わせた研究手法を駆使して、超濃厚電解液中に特有なリチウムイオンの溶存構造を状態別に決定することに成功し、これがリチウム電池特性と密接に相関していることを分子レベルで明らかにしました。この成果は、リチウム塩を濃厚にすることに対する分子論的な意味を提案した点で重要であり、今後の電解液設計の基盤指針となると期待されます。

“Structural and Electrochemical Properties of Li Ion Solvation Complexes in the Salt-Concentrated Electrolytes Using an Aprotic Donor Solvent, N,N-Dimethylformamide”
K. Fujii *, H. Wakamatsu, Y. Todorov, N. Yoshimoto, and M. Morita, J. Phys. Chem. C, 120, 17196-17204 (2016).

発行日:2016.7.26

2016年9月12日

イオン液体を溶媒とする高分子溶液の相転移挙動を中性子線により観測

 イオンのみから構成される液体:イオン液体と高分子の組み合わせは従来系にはない機能を持つ新規のソフトマテリアルとして注目を集めており、実用的な材料展開のための応用および基礎研究が世界中で活発に行われています。創成科学研究科の藤井健太 准教授と東京大学、NIMS、横浜国立大学からなる研究グループは、高分子/イオン液体系の本質を担う基礎特性として温度・圧力などの外部刺激で誘起される相転移現象に着目し、低温で相溶・高温で相分離する高分子溶液に対して中性子線を用いた実験(中性子小角散乱, SANS)を行いました。詳細なデータ解析を通じて、相転移点近傍における構造変化過程をナノレベルで明確に示し、高分子側鎖とイオン液体(特に、陽イオン)の相互作用が相転移温度と密接に関係していることを指摘しました。

“SANS study on the solvated structure and molecular interactions of a thermo-responsive polymer in a room temperature ionic liquid”
K. Hirosawa, K. Fujii *, T. Ueki, Y. Kitazawa, K. C. Littrell, M. Watanabe, and M. Shibayama, Phys. Chem. Chem. Phys. 18, 17881-17889 (2016).

発行日:2016.6.17

2016年6月15日

光学活性なニトロシクロプロパンの新しい合成法を開発

 シクロプロパンは除虫菊に含まれる菊酸などの生理活性物質に多く見られる骨格です。また、既存の薬理活性を有する化合物を修飾して新しい薬剤を開発するためにも重要な有機分子のパーツとして知られています。ニトロシクロプロパンはそれらを合成するためのポテンシャルあるユニットとしてこれまで注目されてきました。応用化学科の上村明男教授(有機合成化学)らは有機触媒を活用して得られるニトロ化合物に、塩基と酸化剤とヨウ素を一気に作用させることで、立体選択的にニトロシクロプロパンを合成できる方法を開発しました。この方法によって容易にニトロシクロプロパンが合成できるだけでなく、得られたシクロプロパンのひずみを利用した開裂反応によって興味深い複素環化合物に簡単に変換できることも見つけました。鉄系の酸化剤を使うことでよりグリーンな合成方法とすることにも成功しました。この方法を用いた新たな生理活性物質物質の合成法の開発への展開が期待されます。

Asymmetric Synthesis of Bicyclic Nitrocyclopropanes from Primary Nitro Compounds and Stereoselective Formation of Tetrahydro-2H-cyclopenta[b]furans via Ring Expansion/Cyclization Reaction
Akio Kamimura,* Takaaki Moriyama, Yuji Ito, Takuji Kawamoto, and Hidemitsu Uno
J. Org. Chem. 2016, 81, 4664−4681: DOI: 10.1021/acs.joc.6b00566
also
An oxidative cyclopropanation reaction of primary nitro compounds using Fe2O3
Takaaki Moriyama, Yuji Ito, Yusuke Koyama, Takuji Kawamoto, and Akio Kamimura*
Tetrahedron Lett. 2016, 57, ASAP: DOI: 10.1016/j.tetlet.2016.06.013.

発行日:2016.6.15

2016年3月7日

マンガン酸化物クラスターをグラフェンにサンドイッチしたナノハイブリッド薄膜を作製し,酸素生成触媒に応用

 水素は将来のクリーンエネルギーとして注目されています。再生可能エネルギーを用いた水の電気分解は理想的な水素製造プロセスですが,対極(アノード)で起こる酸素発生反応がボトルネックとなり,全体の効率を制限しています。一方,緑色植物は光合成によって酸素を上手に生産しており,その中心的な役割をマンガン酸化物クラスターが担っていることが最近明らかになりました。
理工学研究科・物質化学専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,藤井悠介君(博士前期2年),藤本航太朗君(学部4年)らは,炭素の単原子シートであるグラフェン(左図GR)が,Mn(II)イオンの電気化学酸化反応をトリガーにして再積層し,その層間に微小なマンガン酸化物(MnOx)をサンドイッチしたナノハイブリッド薄膜が形成されることを見いだしました。下図(右)に示すように,この薄膜は水の酸化反応(=酸素生成)に対して優れた触媒性能を発揮することが分かりました。

Electrochemical synthesis of a nanohybrid film consisting of stacked graphene sheets and manganese oxide as oxygen evolution reaction catalyst
Masaharu Nakayama*, Yusuke Fujii, Kotaro Fujimoto, Makoto Yoshimoto, Aya Kaide, Takashi Saeki, Hironori Asada, RSC Advances, 6, 23377-23382 (2016).

発行日:2016.2.25

2016年6月11日

大学院創成科学研究科工学系学域応用化学分野の麻川 明俊助教の研究成果がNature Physicsのresearch highlightsで紹介されました。
図1 氷結晶表面上の原子・分子高さの段差を可視化できるレーザー共焦点微分干渉顕微鏡
図2 氷表面を覆う層状と液滴状の水膜
図3 2種類の水膜の生成と水蒸気圧.図の左側は本研究成果を示しており,右側は従来の描像を示している.高い水蒸気圧下では層状と液滴状の水膜が生成するが (A),水蒸気圧が減少していくと,まず層状の水膜が消滅し (B),次に液滴状の水膜が消滅する (C)とわかった.

応用化学科結晶工学研究室の麻川 明俊助教らは、氷表面の1原子・分子高さの段差を検出できる特殊な光学顕微鏡(図1)を用い,融点 (0°C) 以下の温度で生成する氷表面の水膜(図2)の挙動を様々な水蒸気圧下で調べました。 その結果,2種類の水膜は氷が融けるのではなく,水蒸気が析出することによって生成することを見出しました。従来,これらの水の膜は、氷が溶ける「表面融解」で生成すると考えられてきましたが,本成果によって永年信じられてきた「表面融解」の描像は根底から覆されました(図3)。
以上の成果は,米国科学アカデミー紀要 (インパクトファクター;9.7)に掲載 (PNAS, 113 (7), 1749-1753 , 2016)され、今回Nature誌の姉妹誌であるNature Physicsにより選ばれ,同誌のresearch highlightsに抄録されました 。(Nature Physics, 12 (3), 201 , 2016)
上記の液膜は金属結晶や半導体結晶, 有機結晶などでも観察され,本成果はこれら結晶材料の融点直下での界面現象の解明に貢献すると期待されます。
URL
http://www.pnas.org/content/113/7/1749.full?sid=427f55bd-b95a-4b00-96be-84b27d45a630

Harutoshi Asakawaa, Gen Sazakia, Ken Nagashimaa, Shunichi Nakatsuboa, and Yoshinori Furukawaa,Nature Physics, 12(3), 201, 2016

発行日:2016.1.6

2016年5月6日

イオン液体中にpH緩衝効果を発現:均一高分子網目ゲルの反応場として利用

 陽イオンと陰イオンのみから構成される”イオン液体”は、実用的(電気化学デバイス用電解質としての利用など)には、液体状態であるイオン液体をゲル化(擬固体化)した”イオンゲル”としての使用が想定されています。イオン液体と高分子を組み合わせたイオンゲルの開発および基礎物性に関する研究は世界レベルで活発に進められていますが、(1) 十分な機械的強度を持つイオンゲルを作成するためには大量の高分子を必要とすること、(2) ゲル中の液体含量が制限されるため柔軟性・靭性に乏しく、イオン液体が有する溶媒特性を機能として十分に反映できない、といった本質的な課題がありました。
大学院理工学研究科(現・創成科学研究科)の藤井健太 准教授と東京大学のグループは、微量の高分子量で高い機械的強度を持つイオンゲルの開発を目的として、図のような4分岐型高分子のゲル化メカニズムおよびこれと密接に関わる”溶液pH”に着目しました。イオン液体中で酸塩基反応を起こす中性分子(塩基)の酸解離定数を実験的に決定し、これを利用することでイオン液体中に”pH緩衝効果”を発現させるための方法論を確立しました。この「pH緩衝イオン液体」をゲル化の反応場とすることで高分子の架橋反応の精密制御が可能となり、結果として、架橋反応率 95%以上の理想均一網目イオンゲルの開発に成功しました。また、僅か5%の高分子量にも関わらず極めて高い力学特性を有することを実証しました。

Nearly Ideal Polymer Network Ion Gel Prepared in pH-Buffering Ionic Liquid”
K. Hashimoto, K.Fujii *, K. Nishi, T. Sakai, and M. Shibayama, Macromolecules 49, 344-352 (2015).

発行日:2015.12.28

2016年3月10日

有機硫黄系材料を用いた高性能マグネシウム二次電池の開発に世界で初めて成功

山吹一大 大学院理工学研究科 助教、堤宏守 大学院医学系研究科 教授、吉本信子 大学院理工学研究科 准教授らの研究チームは、既存のリチウムイオン二次電池の代替として将来的に期待されている、高容量を有するマグネシウム二次電池の開発に成功しました。

 開発した二次電池は、リチウムに比べて資源量が多くかつ高い理論容量を持つマグネシウムと硫黄を主な構成元素とするため、資源的な制約を受けることなく高容量化の実現が可能となりました。また、正極材料の構成成分に有機硫黄を用いたマグネシウム硫黄二次電池の開発を世界で初めて成功することができました。さらに、既報のマグネシウム二次電池では作動させるためには高温環境下を必要としているものが多いなか、開発した二次電池においては室温での充放電が可能であることを実証しました。
まだ基礎研究段階であり、長期サイクルでの安定な作動性の確保等が必要となりますが、次世代二次電池の候補としての可能性を示すことができ、今後、よりコンパクトな車載用、住宅用の蓄電デバイスへの応用が期待されます。

“Room temperature rechargeable magnesium batteries with sulfur-containing composite cathodes prepared from elemental sulfur and bis(alkenyl) compound having a cyclic or linear ether unit”
Kanae Itaoka, In-Tae Kim, Kazuhiro Yamabuki, Nobuko Yoshimoto, Hiromori Tsutsumi, Journal of Power Sources, 297, 323-328(2015).

発行日:2015.8.29

2015年11月24日

マグネシウム二次電池用の新規電解液 ―イオンの溶存状態を分子レベルで解明―

 イオン化しやすい(2価の陽イオンになる)性質をもつマグネシウム, Mgは、資源的に豊富で高い理論容量をもつことから、既存のリチウムイオン電池を超える次世代二次電池として実用化が期待されています。これまでは、Mg金属を繰り返し溶解・析出できる安全性の高い電解液が皆無であることが最大の問題点でしたが、最近、「グライム」と呼ばれる特殊な有機溶媒を用いた電解液が優れた電池性能を示すことが分かってきました。しかしながら、充電・放電過程でどのような電極反応が起こっているのか(反応メカニズム)は全く解明されておらず、反応化学種となるMgイオンが電解液中でどのように溶存しているのかすら、現状では分かっていませんでした。
大学院理工学研究科・物質化学専攻の木村俊貴君(博士前期2年)と藤井健太准教授、吉本信子准教授、森田昌行教授らのグループは、Raman分光実験と量子化学計算を併用することでグライム系電解液中のMgイオンの溶存状態を原子レベルで特定し、電極反応を理解する上での基盤的情報を得ることに成功しました。この成果は、新規マグネシウム二次電池用電解液の精密設計や更なる機能化を行う上で重要なデータとなります。

“Solvation of Magnesium ion in Triglyme-based Electrolyte Solutions”
T. Kimura, K. Fujii*, Y. Sato, M. Morita, and N. Yoshimoto, J. Phys. Chem. C 119, 18911-18917 (2015).

発行日:2015.8.4

2015年9月24日

マンガン酸化物//活性炭を組み込んだ非対称スーパーキャパシタの劣化挙動をパラパラ漫画風にしてみた

 マンガン酸化物は大容量を実現する次世代スーパーキャパシタ材料として1999年以降活発に研究されています。中でも,正極にマンガン酸化物,負極に炭素材料を組み込んだ非対称タイプは,水性電解液中でも約2Vでの動作が可能という理由で実用化が期待されています。このため,様々な高性能マンガン//炭素セルが提案されてきました。しかし,不思議なことに,その劣化メカニズムについてはこれまで議論されませんでした。
理工学研究科・物質化学専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,阿部光君(博士前期2年)らは,α-MnO2 (+極)と活性炭(-極)からなる非対称セルを0~2Vの範囲で充放電させながら,各電極の電位をモニターすることで劣化挙動を追跡しました(右図:1500サイクルまでの各電極の電流-電位曲線)。その結果,サイクル初期の非可逆な副反応(水の還元)がトリガーとなり,比容量の低下や電位窓の増大をもたらすことで,さらなる副反応が起こり,最終的に両極の電流応答が小さくなることが分かりました。

An Investigation on the Degradation Behavior of an Asymmetric Supercapacitor of α-MnO2//AC Hikaru Abe, Takahiro Tanimoto, Masaharu Nakayama*
J. Electrochem. Soc., 162, A1952-A1956 (2015).

発行日:2015.7.17

2015年9月24日

二重結合の片側のみに置換基を導入する手法を開発 ー非常に作りにくいZ配置分子構造を連続反応により実現ー

精密分子変換技術実現

 炭素-炭素二重結合への位置及び立体選択的な置換基の導入は、医薬品や機能分子の精密合成になくてはならない技術です。
今回、応用化学科西形孝司准教授(テニュアトラック)らは、銅触媒による連続的エステル化-分子内アルキル化反応を開発し、二重結合の同じ側に置換基(Z体)を導入することに成功しました。本反応を応用すると位置が決まった四つの置換基を持つアルケンを合成可能であることも証明しました。
置換基の精密な導入が難しい炭素-炭素二重結合の革新的な変換法として期待されます。

A Detachable Ester Bond enables the Perfect Z-Alkylations of Olefins for the Synthesis of Tri- and Tetrasubstituted Alkenes Takashi Nishikata*, Kimiaki Nakamura, Yuki Inoue, Shingo Ishikawa,
Chemical Communications, 2015, DOI: 10.1039/C5CC03474D

発行日:2015.6.8

2015年9月24日

イオン液体に特有なナノ不均一構造を分子レベルで解明

 イオン液体は、イオンのみから成る常温で液体状態の塩であり、不揮発性や難燃性、高い化学的安定性等、従来の有機溶媒には無い特徴を持つ環境適応型溶媒です。このイオン液体はイオン種の組み合わせにより多様な反応場を与え、中でも、陽イオンのアルキル鎖を長くするとナノスケールで不均一な特殊構造が発現することが知られていますが、その分子レベル構造や発現機構については議論が続いています。
大学院理工学研究科・物質化学専攻の藤井健太准教授は、世界最高性能を誇る大型放射光施設(Spring-8)を利用した高エネルギーX線散乱実験をイオン液体に適用し、得られた実験データを独自に導出した解析関数を用いて精密に解析しました。ミクロ〜ナノスケールに渡る構造特性に基づいて、イオン液体中で特有なナノ不均一性の分子論的由来を特定しました

"Relationship between Low-Q Peak and Long-range Ordering of Ionic Liquids Revealed by High-energy X-ray Total Scattering"
Kenta Fujii*, Shinji Kohara, Yasuhiro Umebayashi, Phys. Chem. Chem. Phys., 17 (2015) 17838-17843.

発行日:2015.6.4

2015年9月24日

哺乳動物細胞への高効率遺伝子導入が可能に

 iPS細胞を作るのも、タンパク質製剤を作るのも、病気の解明をするにも、生物工学研究や医療産業分野のあらゆる場面で、細胞に遺伝子を導入する技術が使われています。しかし、その導入効率はまだまだ満足のいく状況ではありません。
我々、応用分子生命科学系博士課程 鈴木絢子、鎗水透、産学公連携センター 中村美紀子、赤田純子、応用化学科の星田尚司、赤田倫治らと企業とで、ヒト細胞を含む哺乳動物細胞への遺伝子導入をサポートする試薬を見出し、プラスミドDNAを使わなくても効率よい遺伝子導入を達成することに成功しました。これにより、PCRという方法で作製した少量のDNAで今までできなかった遺伝子操作が可能になりました。
本研究の成果により、生命医工学研究のスピードアップが期待できます。

A Novel Terminator Primer and Enhancer Reagents for Direct Expression of PCR-Amplified Genes in Mammalian Cells
Mikiko Nakamura, Ayako Suzuki, Junko Akada, Tohru Yarimizu, Ryo Iwakiri, Hisashi Hoshida, Rinji Akada

Molecular Biotechnology, May 22, 2015, DOI 10.1007/s12033-015-9870-5

発行日:2015.5.22

2015年9月16日

燃えない・強い・柔らかいゲル ―リチウムイオン電池用新規ゲル電解質の開発 ―

 リチウムイオン電池は身近な携帯用電子機器(携帯電話やノートパソコン)に利用され、現在では、電気自動車などの大型機器への展開が期待されています。しかしながら、電解液に有機溶媒を用いるため高温での発火・爆発や液漏れなど安全面での普遍的な課題が存在し、これを解決するため、電解液の難燃化やゲル化・固体化に関する研究開発が活発に進められています。
大学院理工学研究科・物質化学専攻の間 泰佑君(博士前期2年)と藤井健太准教授、吉本信子准教授、森田昌行教授らのグループは、不燃性の有機溶媒と極めて微量の多分岐高分子を用いて、「燃えない・機械的強度が高い・形状自由度が高い」を兼ね備えたゲル電解質を開発し、これをリチウム電池用電解質として応用しました。このゲルは高度な高分子合成技術を必要とせず、簡便に作成できるにも関わらず、電池性能は商用電解液に匹敵することが明らかとなり、今後の展開が期待されます。

“High-performance gel electrolytes with tetra-armed polymer network for Li ion batteries”
Taisuke Hazama, Kenta Fujii*, Takamasa Sakai, Masahiro Aoki, Hideyuki Mimura, Hisao Eguchi, Yanko Todorov, Nobuko Yoshimoto*, and Masayuki Morita*, J. Power Sources., 286 (2015) 470-474.

発行日:2015.4.4

2015年9月16日

オルガノマンガン酸化物フィルムによるヨウ素の吸着と電気化学的な脱着およびセンシング―セルフクリーニング機能をもつ新しい吸着材の開発―

 ヨウ素は甲状腺ホルモンの成分として人にとって必須元素であると同時に,工業原料,医薬品,殺菌剤として幅広く利用されています。一方,コンブなど藻類はヨウ素を選択的に濃縮する機能をもっていることが知られています。この働きを学べば,海水からヨウ素を資源として回収したり,放射性ヨウ素(例えば,長寿命I-129)を除去することができます。
理工学研究科・物質化学専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,佐藤あゆさん(博士前期2年),中川貴美子さん(学部4年)らは,独自の方法で合成した,界面活性剤(ヘキサデシルピリジニウム)の分子層をサンドイッチしたフィルム上層状マンガン酸化物が,海水成分の中からヨウ化物イオンだけを吸着できることを見出しました。また,吸着後のフィルムを酸化すると,ヨウ素が放出され,元の状態に戻ることを明らかにしました(=セルフクリーニング)。酸化時の電流を計測すれば,吸着量を知ることが可能です。

Selective sorption of iodide onto organo-MnO2 film and its electrochemical desorption and detection
Masaharu Nakayama, Ayu Sato, Kimiko Nakagawa
Anal. Chim. Acta, 877, 64-70 (2015).

発行日:2015.3.28

2015年9月7日

イオン液体と多分岐高分子を複合した高強度イオンゲル ーゲル化反応メカニズムを解明ー

 イオン液体は、有機カチオンと無機アニオンからなり、不揮発性、難燃性、熱・化学的安定性に優れた新たな溶媒として注目を集めています。大学院理工学研究科・物質化学専攻の藤井健太准教授と東京大学のグループは、4分岐ポリエチレングリコール(Tetra-PEG)とイオン液体中の複合化に着目し、高強度・高導電性・二酸化炭素の吸収選択性を兼ね備えた「高性能イオンゲル」の開発を進めています。今回の研究では、イオン液体中におけるTetra-PEGのゲル化反応メカニズムを(1)イオン液体中の酸塩基反応(2)反応速度論の両観点で解明し、架橋点・高分子網目の均一性とゲルの機械的強度の相関関係を明快に示しました。この成果は、イオンゲルの物性制御を実現する上での根幹情報であり、応用展開のための基盤的指針となります。

“Gelation Mechanism of Tetra-armed Poly(ethylene glycol) in Aprotic Ionic Liquid Containing Nonvolatile Proton Source, Protic Ionic Liquid”
Kei Hashimoto, Kenta Fujii*, Kengo Nishi, Takamasa Sakai, Nobuko Yoshimoto, Masayuki Morita, and Mitsuhiro Shibayama, J. Phys. Chem. B, 119 (2015) 4795-4801.

発行日:2015.3.13

2015年9月7日

有機/無機ナノハイブリッド薄膜を使って着色排水を透明に
図:中性有機色素(p-AAB)を含む水溶液に今回開発した薄膜を浸漬した際の色変化,薄膜のX線回折パターン,ならびに速度論的解析.

 大学院理工学研究科・物質化学専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,森 克将君(博士前期2年),井口創平君(学部4年),竹部秀輔君(博士前期1年)らは,界面活性剤分子が集積した有機層とマンガン酸化物ナノシートが交互に積層した有機/無機ナノハイブリッドを独自の電気化学法によって薄膜化し,得られた薄膜を使って着色排水を透明にするプロセスを開発,そのメカニズムを解明しました。従来の吸着材が嵩高い粉体であるのに対し,この材料は微細加工が可能な薄膜(厚さは1ミクロン程度)であるため,微小流路での脱色や有機汚染物質の除去などに応用できます。一方,炭素繊維など高表面積基体にコーティングすれば大規模な工業プロセスへの展開も可能です.

A thin film sorbent of layered organo-MnO2 for the extraction of p-aminoazobenzene from aqueous solution
Katsumasa Mori, Sohei Iguchi, Shusuke Takebe, and Masaharu Nakayama
J. Mater. Chem. A, 3, 6470–6476 (2015).

発行日:2015.2.20

2016年4月25日

リン脂質二分子膜ベシクルによる蟻酸脱水素酵素の構造と活性の安定化
図:中性有機色素(p-AAB)を含む水溶液に今回開発した薄膜を浸漬した際の色変化,薄膜のX線回折パターン,ならびに速度論的解析.

 生体におけるタンパク質の生成過程では,ポリペプチドが正確に折り畳まれるために,分子シャペロンとよばれる一群のタンパク質が活躍します。酵素の機能を利用して物質生産を行うバイオプロセスにおいて,酵素分子の複雑な立体構造を維持することは重要な課題のひとつです。応用化学科の吉本(誠)准教授は応用分子生命科学系専攻博士前期課程(当時)の小園さん,坪村さんと共同で,適切な荷電状態にあるリン脂質ベシクル(リポソーム)が高温条件下において蟻酸脱水素酵素の熱安定性を向上させることを明らかにしました。この酵素は,蟻酸(あるいは二酸化炭素)を補酵素の共存下で酸化(あるいは還元)します。このようなリポソームの機能は,分子シャペロンと類似しており,生体外において酵素を安定に機能させるために有用と考えられます。

“Liposomes as chaperone mimics with controllable affinity toward heat-denatured formate dehydrogenase from Candida boidinii
M. Yoshimoto, R. Kozono, N. Tsubomura, Langmuir, 31, 762-770 (2015)

発行日:2014.12.16

2015年9月7日

窒素を含む中員環の新規合成方を開発−ドイツ・エアランゲン大学(本学国際交流大学)との学生留学を通じた共同研究の成果

 工学部の新長州ファイブ奨学金を得て、本学の交流協定大学であるドイツのエアランゲン大学(Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnberg)に2012年に留学していた応用化学科出身の医学系研究科博士後期課程)の野首智美さんの、エアランゲン大学での研究成果が、 Tetrahedron Letters誌に同大学薬化学科のHeinrich教授と本学医学系研究科の上浦明男教授との国際共同研究論文として掲載されました。この研究はアゾ基(N=N)を含むビアリールをメイン骨格とする中員環化合物(8員環)を、ジアゾ化合物とアリルエステルとから一段階で得られる入手容易な化合物から簡単に効果的に合成する手法の開発です。アゾ基を含む中員環化合物は一般には入手困難ですが、生理活性が期待できる化合物も多く、この研究が新しい創薬開発の有効な合成反応の一つとして興味深い結果を与えたものとして興味が持たれます。野首さん自身も楽しい半年間の留学生活を送ってきました。後に続いて留学する学生さんが、応化からたくさん出てくることを期待しています。

Synthesis of dibenzo[c,e][1,2]diazocines - a new group of eight-membered cyclic azo compounds
Tomomi Nokubi, Stephanie Kindt, Tim Clark, Akio Kamimura, Markus R. Heinrich
Tetrahedron Lett. 2015, 56, 316 – 320: doi:10.1016/j.tetlet.2014.11.064

発行日:2014.11.22

2015年7月24日

バイオマスの効率的な変換反応−レンジで10分!インスタント食品を作るような手軽さでソルビトールの変換を実現

 セルロースに代表される倍増すの効率的化学資源化は大きな課題とされています。バイオマス由来の成分であるソルビトールの脱水変換に対して、イオン液体を使った画期的な手法の開発に成功しました。
応用化学科に関連する応用分子生命科学系修士課程 岡川大樹くん、田中佳季くん、村田健虎くん、宇部興産宇部研究所の海磯孝二グループリーダー、松本紘研究員、応用化学科の吉本誠准教授(化学工学)、上村明男教授(有機合成化学)らは、バイオマス由来の化学原料であるソルビトールを、疎水性イオン液体中触媒量の酸を作用し、化学反応用に改造した電子レンジでマイクロ波照射を行うと、わずか10分で医薬品やプラスチックの原料として有用なイソソルビドへと高効率で変換できることを見いだしました。溶媒として用いたイオン液体は回収して何度も再利用ができます。イソソルビドは抽出処理を行うことで単離可能で、グリーンなバイオマス変換として、将来の利用が期待されます。

Rapid Conversion of Sorbitol to Isosorbide in Hydrophobic Ionic Liquids under Microwave Irradiation
Akio Kamimura,* Kengo Murata, Yoshiki Tanaka, Tomoki Okagawa, Hiroshi Matsumoto, Kouji Kaiso, and Makoto Yoshimoto, ChemSusChem 2014, 7, 3257 – 3259: DOI: 10.1002/cssc.201402655

発行日:2014.9.15

2015年7月24日

硫黄の極細ファイバーを鋳型とした硫化銅マイクロチューブ ―新しいマイクロチューブ作成法を提案―

 カーボンナノチューブをはじめ、様々なナノ、マイクロチューブはそのユニークな特性から機能材料として注目を集めています。応用化学科の堤宏守らは、これまで電解紡糸法という方法によって溶融状態から硫黄のマイクロファイバーを作製する技術を確立していました。今回、この硫黄ファイバーを鋳型として無電解めっき法という方法で銅めっき処理を行い、鋳型の硫黄ファイバーを加熱除去すると硫化銅(CuS)のマイクロチューブが得られることを見出しました。このCuSマイクロチューブは高性能な電池用電極材料、中空部分を用いた物質輸送、物質分離など様々な分野への応用が期待できます。

Electrospun sulfur fibers as a template for micrometer-sized copper sulfide tubes
Hirotoshi Nakamoto, Hiromori Tsutsumi, Materials Letters (2014) 136, 26-29.

発行日:2014.8.13

2015年6月15日

パラジウム触媒を使ったダブルアリル化反応−多置換ジヒドロフランの簡便な合成法を開発

 酸素を含んだ複素環化合物であるフランの合成は、天然物合成や機能性材料の開発に重要であると考えられています。そこでこれらの化合物の簡便な合成法の開発がのぞまれています。
応用化学科に関連する応用分子生命科学系博士後期課程 仲野敏樹くん、応用化学科の上村明男教授(有機合成化学)らは、アリルニトロ化合物をアセト酢酸エステルとパラジウム触媒存在下で反応させることで、一気にダブルアリル化反応が進行して、1段階でジヒドロフランが得られル反応を開発しました。この反応は高い位置選択性で進行し、目的のジヒドロフランが高収率で得られるので、便利な合成法として有機合成化学だけでなく材料開発の分野にも応用されることが期待されます。

Preparation of 2,3-Dihydrofurans via a Double Allylic Substitution Reaction of Allylic Nitro Compounds
Toshiki Nakano, Koichiro Miyazaki, and Akio Kamimura*
J. Org. Chem. 2014, 79, 8103 – 8109: DOI: 10.1021/jo5013042

発行日:2014.8.5

2015年6月15日

金触媒を使ったあたらしい複素環合成−作りにくいとされてきた中員環の効率的な構築を実現

 複素環化合物の合成は創薬研究などの生理活性物質の探索には欠かせないものですが、金触媒を使った新しい合成方の開発に成功しました。
応用化学科に関連する応用分子生命科学系修士課程 山根侑くん(現理工学研究科博士後期課程)、応用化学科の上村明男教授(有機合成化学)らは、メントールを原料として容易に得られる光学活性なスルフィンイミンをベースとしたキラルエンイン化合物(二重結合と三重結合を持った化合物)が、触媒量の1価の金錯体を2価の銅塩とを同時にを作用させることで、これまで作りにくいとされてきた含窒素7員環化合物の合成が容易に進行することを明らかにしました。得られた複素環化合物は、窒素原子と酸素原子をそれぞれ1つずつを含む7員環化合物であり、種々の塩基や酸とも反応して、ユニークな化合物へと変換できることから、これからの合成的な展開が期待されます。

Gold(I) Catalyzed Synthesis of Optically Active 1,4-Oxazepan-7-ones Akio Kamimura,* Yu Yamane, Ryuichiro Yo, Toshiyuki Tanaka, and Hidemitsu Uno J. Org. Chem.2014, 79, 7696 – 7702: DOI: 10.1021/jo501254x

発行日:2014.7.23

2015年6月12日

ポリアミドの高効率化学リサイクル反応を開発ー単に原料に戻すのではなくより高価な化学製品に変換

 毎年毎年膨大な量を生産されているプラスチック。しかしその効果的なリサイクルは持続可能な発展を支えるために重要な課題として考えられているにもかかわらず、これまで二よい方法がありませんでした。
応用化学科に関連する応用分子生命科学系修士課程 池田功介くん、宇部興産宇部研究所の海磯孝二グループリーダー、松本紘研究員、応用化学科の吉本誠准教授(化学工学)、上村明男教授(有機合成化学)らは、ポリアミドプラスチックを超臨界メタノール中でグリコール酸などの有機酸を作用させることで、ポリアミド系プラスチックを原料のモノマーに変換するのではなく、ヒドロキシカルボン酸に一段階で効率的に変換する方法を見いだしました。ヒドロキシカルボン酸モノマー原料よりも効果に指導で取引されている化学品であることから、プラスチックをリサイクルしより高価な材料を産み出すことににより、リサイクル化学に経済的な解決法を与える画期的な方法として注目されています。ゴミとして扱われるプラスチックも、宝の山としてもてはやされる時代がまもなく来るかもしれません。

Efficient conversion of polyamides to omega-hydroxyalkanoic acids; a new method for chemical recycling of waste plastics
Akio Kamimura,* Kosuke Ikeda, Shuzo Suzuki, Kazunari Kato, Yugo Akinari, Tsunemi Sugimoto, Kohichi Kashiwagi, Kouji Kaiso, Hiroshi Matsumoto, and Makoto Yoshimoto, ChemSusChem 2014, 7, 2473 – 2477: DOI: 10.1002/cssc.201402125.

発行日:2014.7.8

2015年6月11日

カーボンナノチューブを足場に用いたマンガン酸化物の析出-可視および近赤外領域の光電変換効率の増大効果-

マンガン酸化物は可視光を吸収するので,その励起電子を外部回路に導けば光電流を獲得できます。しかし,通常の結晶性マンガン酸化物では励起した電子が直ちに正孔と再結合するので,光電流を検出した例はほとんどありませんでした。
大学院理工学研究科・物質化学専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,三刀俊祐君(博士前期2年),毛利裕治君(学部4年)らのグループは,ナノシート化したマンガン酸化物を電極上に集積させること,さらに良導電体であるカーボンナノチューブを足場に用いたコア-シェル構造の構築により,光電流を大幅に増大させることに成功しました。

上:マンガン酸化物/カーボンナノチューブ複合体に400 nm以上(赤)あるいは400~700 nm(水色)の光を照射した際の電流応答.
中:カーボンナノチューブのみの場合.
下:マンガン酸化物のみの場合.

“Enhanced Photocurrent in Birnessite–Type MnO2 Thin Films in the Visible and Near-Infrared Regions by ScaffoldingMulti-Wall Carbon Nanotubes
Masaharu Nakayama, ShunsukeMito, Yasuharu Mohri
J. Electrochem. Soc., 161, H355-H358 (2014).

発行日:2014.4.16

2015年6月9日

テトラブロモシランの熱分解による結晶性シリコンの合成

 従来のシリコン製造プロセスでは,三塩化ケイ素(SiHCl3)が出発原料として用いられ,その熱分解過程で副生する四塩化ケイ素(SiCl4)はシリコン形成に関しては“邪魔者”と見なされてきました。よって,この四ハロゲン化ケイ素からシリコンを合成できれば副生物が蓄積することなく,シリコン形成を持続させることができます(=クローズドプロセス)。
大学院理工学研究科・物質化学専攻/工学部・応用化学科の中山雅晴教授,宮本成司君(博士前期2年),小川拓朗君(博士前期1年)らのグループは,四臭化ケイ素(SiBr4)が比較的低い温度(800~1000℃)で結晶性シリコンに転換されることを見出し,そのメカニズムを提案しました。

Thermal decomposition of tetrabromosilane and deposition of crystalline silicon
Masaharu Nakayaman, Seiji Miyamoto, Takuro Ogawa, Shogo Osae, Kazuaki Tomono, Michinori Sumimoto, Yoshihisa Sakata, Ryuichi Komatsu
Materials Science in Semiconductor Processing, 23, 93–97 (2014).

発行日:2014.3.13

2015年6月8日

新しい有機蛍光色素を開発ー水溶性も脂溶性も自由自在にコントロール。ビアリール骨格に基づくローバストな材料として期待

 バイオイメージングの分野では既存の色素を使った生化学的反応の追跡研究が活発に進められていますが、既存色素は容易に壊れてしまう問題点がありました。
応用化学科に関連する応用分子生命科学系博士後期課程 野首智美さん、修士課程 渡邉隆介くん、那須浩太郎くん、石川万利さん、応用化学科の上村明男教授(有機合成化学)らは、市販の安価な材料である1,4−ベンゾキノンから3段階で容易に合成できる2−スルファニルヒドロキノン二量体が比較的効率よく蛍光を発する新しい蛍光色素となることを見いだしました。側鎖の置換基を種々変換することで、水溶性も脂溶性も獲得でき、種々の溶媒で良好な青色蛍光を発することがわかりました。ビアリール骨格に基づく蛍光材料であり、安定度の高いローバストな色素となると考えられます。今後側鎖を工夫することで新たなバイオイメージング材料としての応用が期待されています。

4,4'-Disulfanyl-2,2',5,5'-tetraoxybiaryl Derivatives as a Water Soluble Fluorescent Dye
Akio Kamimura, Tomomi Nokubi, Ryusuke Watanabe, Mari Ishikawa, Kotaro Nasu, Hidemitsu Uno, and Michinori Sumimoto, J. Org. Chem. 2014, 79, 1068 – 1083: DOI: 10.1021/jo402522y; also
Preparation of Hydrophobic 2-Phenylthiohydroquinone Dimers and Evaluation of Their Photophysical Properties
Akio Kamimura,* Yasuko Takechi, and Ryusuke Watanabe,Heteroatom Chem. 2014, 25, 402 – 409: DOI: 10.1002/hc.21169.

発行日:2014.1.8

2015年4月7日

細胞からの分泌シグナル配列を合成生物学的に構築 ―バイオ医薬品の高分泌生産方法を提案―

 バイオ医薬品の開発が進んでいます。多くのバイオ医薬品は分泌性(細胞外で働く)タンパク質(下図)です。
応用化学科に関連する応用分子生命科学系博士後期課程 鎗水透、産学公連携センター 中村美紀子、応用化学科の星田尚司、赤田倫治らは、細胞から分泌されるタンパク質に共通する分泌シグナル配列を解析し、全く新しい人工的な分泌シグナル配列を構築しました。16残基ものメチオニンからなるこの配列(MKM16E)は、野生型の20倍以上の分泌活性を示し、特許申請しました。自然界に存在しなかった人工的な配列を構築した意味で、このような研究を合成生物学と呼びます。バイオ医薬品開発への応用が期待できます。

Synthetic signal sequences that enable efficient secretory protein production in the yeast Kluyveromyces marxianus Tohru Yarimizu, Mikiko Nakamura, Hisashi Hoshida and Rinji Akada, Microbial Cell Factories (2015) 14:20 DOI 10.1186/s12934-015-0203-y

発行日:2015.4.7